2024年3月23日 ザクセン州立歌劇場
R・シュトラウス 影のない女
指揮 クリスティアン・ティーレマン
演出 ダヴィッド・ベッシュ
エリック・カトラー(皇帝)、カミッラ・ニールント(皇后)、エヴェリン・ヘルリツィウス(乳母)、アンドレアス・バウアー・カナバス(伝令)、オレクサンドル・プシュニアク(バラック)、ミーナ・リーサ・ヴァレラ(バラックの妻)、ニコラ・ヒッレブラント(神殿の敷居の守護者) 他
ティーレマンのドレスデンの首席指揮者としての契約は今シーズン限りで、いよいよそのピリオドが迫ってきた。本プロダクションは、そんなティーレマンが振るゼンパー・オーパー最後の新演出。彼の置き土産となるプロダクションだ。この日はプレミエ(チクルスの初日)。
いやー・・・もう・・・。
言葉が出ないくらい、猛烈に感動した。クライマックスは涙に咽いだ。
私はティーレマンが振る「影のない女」を過去に2度ライブで聴いている。
2011年のザルツブルク音楽祭、そして2019年のウィーン国立歌劇場。
収録された映像も視聴したし、ティーレマンの音楽、この作品に対するアプローチがどのようなものなのかは、何となく分かっていたつもりだった。それでも圧倒的な音の洪水、炸裂に、ビリビリと痺れ、打ち震えた。
もちろん、私が大好きな作品だから、ということもある。一番好きなオペラなのだ。曲に感動している部分は間違いなくある。
はっきり言おう。
この作品「影のない女」に出会えたのは、私の人生における最大級の「喜び」。
そして、ティーレマンが振る3つのプロダクションを鑑賞することが出来たのは、私の人生における最大級の「誇り」。
歌手は、私にとってお馴染みの人たちばかり。ほとんどの出演者について、同じ曲の同じ役を過去に聴いている。
それでも、女性陣の3人、C・ニールント、E・ヘルリツィウス、M・L・ヴァレラは、諸手を挙げて絶賛し、ひれ伏すしかない。
M・L・ヴァレラについては、昨年のバーデン・バーデン・イースター音楽祭でも同役を聴いた。
この時、「不調だが、頑張って出演する」という事前告知が入った。「いやいや不調に聴こえない。全然問題ないじゃないか。」と思ったが、今回のドレスデンの公演を聴いて、「なるほど、本調子だとこんなにすごいのか!」と感嘆した。
ベルベットのような声質。美しく、光沢があり、加えて強靭さもある。
声域は異なるが、なんとなく往年の名メゾ、マリアーナ・リポヴシェクを彷彿とさせた。(私はリポヴシェクの歌声が好きだった。)
バラック役のプシュニアクは、今回始めて聴くということで、注目した。ウクライナのバリトン歌手。ストレートな歌声である。キャラはあまり感じられない。良い歌手だと思うが、これからエリート街道を歩んでいくかどうかは、現段階ではよく分からない。
D・ベッシュ演出について。
皇帝と皇后のいる魔界において、シンプルに白い巨大なカーテンを設置し、そこにプロジェクション映像を使ってイメージを映し出す手法が目を引いた。映像が、とても美しかった。
また、脇役でしかない鷹を大型の模型にし、羽ばたかせて登場させ、キープレーヤーの役を担わせていたのも大きな特徴。もしかしたらこの鷹が、本来は舞台に登場しないカイコバートだったのかもしれないという推測が成り立つ。いずれにしても、グッドなアイデアで、良い演出だったと思う。
カーテンコールはお祭りと化した。絶賛の嵐だった。
歌手たちへのブラヴォー。そしてティーレマンへの盛大なブラヴォー。
ドレスデンの人たちよ。
マエストロはもうすぐ去ってしまうのだよ。本当にそれで良かったのかい?
ザクセン州の文化芸術政策上の失敗なんじゃねーの? もう今さらだけどさ。