2024年2月3日 NHK交響楽団 A定期演奏会 NHKホール
指揮 井上道義
合唱 オルフェイ・ドレンガル男声合唱団
アレクセイ・ティホミーロフ(バス)
J・シュトラウス ポルカ「クラップフェンの森で」
ショスタコーヴィチ 舞台管弦楽のための組曲第1番、交響曲第13番「バビ・ヤール」
メインの「バビ・ヤール」、すごいものを聴いてしまった・・・。
「凄絶」、この一言がすべてである名演だ。
これはもう、早くもN響毎年恒例の「年間コンサート・ベストテン」の上位ランクイン決定ではないか。
(まあ、どうせ、もしブロムシュテットが秋に来日したら、それが第1位になっちゃうんだろうけど・・・)
名演が生まれるためには、必要な成立要件がある。
演奏の卓越性、作品そのものが備える訴求力、聴衆の受入態勢、この3つである。
本公演は、これらがピタリと揃った。この機会を逃さず享受したお客さんは幸運だ。
かくして、井上道義はN響の演奏史にその名を刻んだ。
今年の年末をもって引退を宣言している井上氏。今回が最後のN響定期公演出演となる。
彼のN響での最後の勇姿を見届けようと、多くの聴衆・ファンがNHKホールに集った。会場は、ほぼ満員だった。この会場で、このプログラムで、この入りというのは普段ならあり得ない。井上目的であることは明らかだ。
つまり、名演が生まれるための下地が出来上がっていたということ。
客演ソリスト、ロシアのティホミーロフの出演も、大成功の要因。
歌唱力、バスの朗々たる響きは強烈そのもの。がたいがデカく、圧倒的な存在感によって会場を支配し、空気を氷結させた。
同じく客演として、北欧からわざわざ合唱団を招いたのもポイントだろう。
正直な感想として、合唱の実力という意味では、それほど特筆すべきとは思えなかった。
だが、ロシア語の発音やニュアンスという面で、演奏効果をしたたかに支えていたのだと思う。
ところで、ショスタコーヴィチの作曲人生につきまとい、翻弄し、苦しませることとなる当局からの圧力が、この「バビ・ヤール」においても例外なく及んでおり、かつて歌詞の改編を求められた、という歴史経緯がある。
たまたまのタイミングだが、ちょうど今、アニメ作品のテレビドラマ化にあたり、放送局側から脚本を都合よく改編させられ、原作者が自殺してしまう、という痛ましいニュースが取り沙汰されている。
程度の差はあれど、いつの時代においても、圧力に苦しむ人がいる社会が存在するのだと、つくづく実感。