クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/11/18 新国立 シモン・ボッカネグラ

2023年11月18日   新国立劇場
ヴェルディ   シモン・ボッカネグラ
指揮  大野和士
演出  ピエール・オーディ
管弦楽  東京フィルハーモニー交響楽団
ロベルト・フロンターリ(シモン・ボッカネグラ)、イリーナ・ルング(アメーリア)、リッカルド・ザネッラート(フィエスコ)、ルチアーノ・ガンチ(ガブリエーレ)、シモーネ・アルベルギーニ(パオロ)、須藤慎吾(ピエトロ)   他

 

シモン・ボッカネグラを観るのは、2014年5月のローマ歌劇場来日公演(R・ムーティ指揮)以来、9年ぶり。当時ムーティローマ歌劇場音楽監督だったわけだから、あれから月日が経った、つまり、このオペラを観るのは久しぶり、ということになる。

その間、チャンスが無かったわけではない。
パンデミックが発生し、飛行機や宿、オペラチケットもすべて確保しておきながら、断念せざるをえなかった2020年のゴールデンウィークアメリカ旅行では、メトロポリタン・オペラで「シモン」を観る予定だった。
また、同じくパンデミックにより、パレルモ・マッシモ劇場の来日公演で、延期により2022年6月にP・ドミンゴが歌う「シモン」の上演が急遽計画されたが、再度延期になってしまい、結局「椿姫」に変更されてしまった。

コロナに翻弄された「シモン」を、ようやく観ることが出来た感慨は深い。


名高い演出家P・オーディと組み、フィンランド国立歌劇場、テアトロ・レアル劇場(マドリード)と共同制作された新国立劇場の上演は、音楽の充実度ぶりが顕著に目立った。音楽の勝利と言えるものだった。

勝利の要因は3つ。
第一に、作品そのものの素晴らしさ。
ヴェルディは43歳の時に一度作品を仕上げておきながら、24年後に改訂し、再度世に送り込んでいる。24年後というのは、「アイーダ」の次、これ以降に「オテロ」「ファルスタッフ」が続くのであり、まさに壮年の頂期に当たる。若かりし頃の、あの情熱的な「ズンッ チャカチャッチャッチャ・・」は、もう無い。円熟の作風と総督ボッカネグラの老境が見事に重なった、しみじみとした味わいが心に響く。

第ニに、指揮を務めた大野和士氏の、奥深く、包み込むような、絶妙の仕上げ。
声とのバランスが良く、情感をしっかりと作り出す一方で、バシッと決め打ちするような強奏がドラマを引き締める。
意外なことに、大野さんが振るヴェルディを聴いたことがほとんどなかったが(過去に1度のみ)、心の底から充足感に浸らせてくれた。

そして、第三が、歌手陣の充実。
特に、R・フロンターリ、R・ザネッラート、S・アルベルギーニの3人の男性ベテラン勢が、実にいい。彼らには、役も、ヴェルディの音楽も、完全に身体に入っていて、滔々朗々とした渋い歌声が滲みる。ガブリエーレ役のR・ガンチも、初めて聴いたのだが、若者の役らしい直情的な歌い方が冴えていた。


オーディの演出については・・・うーん、どうなんだろうね・・。

悪いとは言わん。作品をイメージで捉え、現代美術と掛け合わせながら、象徴化された装置の下で物語を展開させる、というやり方は、着想として全然あり、オッケーだと思う。

その象徴化された「逆さに吊られている火山」だが、本人のインタビュー記事を読めば、答えが明かされていて・・

「このイメージは、ドイツ・ロマン主義の作家ヘルダーリンの戯曲『エンペドクレス』から着想を得ていて、エンペドクレスは古代ギリシャの哲学者で、エトナ火山の近くに住む孤独な人物として描かれ、それがボッカネグラと重なっています・・・」

いやいやいや、そんなの言葉で説明されなきゃ、分かんねーだろっつうの!
(言葉で説明されたって、分かんねーよ)

説明を聞かずに舞台だけを見て解釈の真意を探らなければならない観客のことを考えろって。

と言いつつ・・・舞台を見て、自分なりに捉えられた部分、想像できた部分も実際にはあって、「まあ、それならいいか」みたいに思えたこともあった。

例えば、例の逆さに吊られている火山、その下、つまり足元の地面は、赤く染まった堆積物のような形状になっていて、これって、マグマの吹き溜まりだよね。
で、想像を更に膨らますと、何だか血溜まりにようにも見えて、ってことは、要するに「ドロドロ、血みどろの物語の象徴」ってこと!?(笑)

それから、プロローグでマリアさんが亡くなり、続く第1幕はそこから25年後のことで、幕が開くとそこにアメーリアが横たわっていて、これって母から子の生の継承って意味?
更にその場面で、横たわっているアメーリアを4人の男が四方で囲むように見つめているって、これって、「これから始まる複雑な愛憎劇の象徴」ってこと?

ま、そんなこんなで、演出、悪くはなかったです。

それにしても、プロローグから第1幕への25年の歳月と、ヴェルディが改訂するまでにかかった24年の歳月、流れた月日の長さが何とも意味深に重なるなあ・・・。


ところでだけどさ、演出家のP・オーディ、写真とかで見たことある?
この人、レバノン人なんだよね。
カルロス・ゴーンと、顔、似てるんだよね(笑)。やっぱ同じ民族。