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2023/10/1 新国立 修道女アンジェリカ、子供と魔法

2023年10月1日   新国立劇場
プッチーニ  修道女アンジェリカ
ラヴェル  子供と魔法
指揮  沼尻竜典
演出  粟國淳
管弦楽  東京フィルハーモニー交響楽団


新国立劇場2023-24年シーズンの開幕公演。演目には、ダブルビルとして、プッチーニラヴェルの2作品が並べられた。
ほぼ同時期と言っていい頃の作品だが、作曲者が異なり、当然作風は全然違う。しかし、両物語には「母と子」という重要な共通テーマが存在しており、かくしてカップリングが成立。大野芸術監督の目利きの鋭さ、采配の妙が際立つ。決して頻繁に上演されない、いわゆるポピュラー物ではないが、非常に素晴らしい作品で、こういうのをやってくれると、個人的に非常に嬉しい。頼むから、もっともっとやってくれ。

なお、以下の鑑賞記の内容には、ネタバレが含まれているので、これからご覧になる方は要注意としていただきたい。


1 修道女アンジェリカ
キアーラ・イゾットン(アンジェリカ)、齊藤純子(公爵夫人)、塩崎めぐみ(修道院長)、郷家暁子(修道女長)、小林由佳(修練女長)、中村真紀(ジェノヴィエッファ)   他

私はこの作品が熱烈に好きなので、冷静に感想を語ることが出来ない。音楽に没頭し、プッチーニのこの世のものとは思えない美しい旋律に身を委ね、ただただ涙してしまう感動体験。

主役のK・イゾットンが、さすがの熱唱で聴いている人の琴線に響かせてくれる。抑制するところと感情を爆発させるところを上手くコントロールし振り分けていて、楽譜をきちんと読み込み、全体を捉えていることが伺えた。
また、イタリアから招く予定だった歌手のキャンセルによって代役となった公爵夫人役の齊藤純子さんも、好演。演出による演技振り付けによって、ありがちな「鬼のように厳しい伯母」ではなく、高貴で毅然とした振舞いを体現していて、素敵だった。
(我が子が死んだという知らせに崩れ落ちたアンジェリカに対し、一瞬手を差し伸べようとし、そして思い留まる、というシーンは、非常に印象的だった。)

指揮の沼尻さんが紡いだ音楽が、実に丁寧かつ繊細。ハープやチェレスタグロッケンシュピールなどの楽器を効果的に浮き上がらせながら、声、旋律に寄り添わせる音楽作りが、とろけるような味わいだ。

演出について。
演出家粟國さん、舞台を見てすぐに分かったが、さすがイタリア育ち、修道院という世界、様子について、知っている人間だと思った。修道女たちの営みや、一人ひとりの心の中まで、ちょっとした仕草も混じえながら細かく演出していた。

最大の見せ場である、最後の奇跡の場面。
大抵のパターンとしては、マリア様のお許しを得、アンジェリカのもとに実際の子供が登場してきて、感動の再会、という感じだが、粟國さんは、そうしなかった。あえて。
奇跡の有無は、アンジェリカの中だけに置き留めた。アンジェリカは静かに優しく我が子を抱くかのような動きをそっと見せる。でも、我が子が本当に見えたかどうかは、分からない。そこは想像させる。観客に「ハイ、こうですよ」と押し付けをしない。演出でわざわざ見せなくても、ちゃんと音楽が語ってくれている。
私は、粟國さんの本解釈について、高く評価したい。


2 子供と魔法
クロエ・ブリオ(子供)、齊藤純子(お母さん)、田中大揮(肘掛椅子/木)、盛田麻央(安楽椅子/羊飼いの娘/ふくろう/こうもり)、河野鉄平(柱時計/雄猫)、十合翔子(中国茶碗/とんぼ)、三宅理恵(火/お姫様/うぐいす)   他

こうしたダブルビルの場合、たとえ作品がまったく異なっていても、「無理やり共通項で囲って、同一の舞台に組み込む」という手法が、本場欧州の演出においては比較的顕著だが、粟國さんはまったく別物の二つとして制作した。
まあ、それはそれでいいだろう。実際、まったく別なんだから。
演出家が掘り下げなくても、そもそも最初に「母と子」がテーマとして掲げられ、並べているわけだから、あとはその中で自由に展開すればいいというわけだ。

ということで、映像を駆使し、装置、衣装、ダンスなどをふんだんに活用し、見た目賑やかで鮮やかでファンタジックで、実に楽しい創造的な舞台に仕立て上げた。

これは観ているお客さんも喜ぶだろう。
難しい解釈無し。華やかに舞台を飾り、その中で登場人物が生き生きと動き、そして歌う。

私としても、文句無し。いいんだよ、これで。オペラって、こんなにも面白く、楽しいんだ。

ラヴェルの音楽が、各キャラクターをキラキラと引き立てていて、その上で、少年がリスを介抱し包帯を巻いてやると、各キャラたちが「この子、いい子だよ」と見直す場面ではしっとりと感動的に響かせる。本当に精巧。指揮の沼尻さんも、こうした旋律の際立たせ方が絶妙だ。


このプロダクションなら、新国立劇場の新たな看板として加えられたっていいだろう。
ところが、残念なことに、如何せん「子供と魔法」という作品自体がマイナーだし、短くて単独上演できないので、看板に仕立てることは難しい。
となると、次、いつ再演されるのだろうか。
もったいねぇー。
あとはせいぜい、高校生のための音楽鑑賞教室で活用するしかないか。十分啓発になると思うけど。


最後に、本公演は文化庁主催「芸術祭」の一環の公演ということで、秋篠宮皇嗣及び妃両殿下の臨席があり、開演前に文化庁長官の都倉俊一氏が舞台上で挨拶を行った・・のだが・・。

なんじゃ、その文化庁の芸術祭って?? 知らんわ、そんなの。
いかにも「国として文化芸術を振興します」みたいな役所役人の押し付けがましい事業的発想と、補助金行政のいかがわしさ。うぜー。

こっちは早く幕を開けてほしいのに、その前にお偉い人の取ってつけたような挨拶って、ホント不要。いらね。
しかも、聞きたくもない挨拶がようやく終わったと思ったら、都倉長官、ご丁寧にわざわざ今度は英語で繰り返し挨拶始めやがって、まじイライラした。

都倉俊一、おいらにとっては、山口百恵ピンク・レディーなど昔の歌謡界で数々のヒット曲を連発させた作曲家だ。作詞家阿久悠とのコンビは一世を風靡したよな。

それと、英語の挨拶を聞いて、「あ、コイツの英語は本物、完全にバイリンガルのそれ」と分かった。
ま、ホントどうでもよかったが・・・。