2023年5月22日 マーラー・フェスティバル Ⅲ (会場:ゲヴァントハウス)
指揮 ダニエル・ハーディング
管弦楽 バイエルン放送交響楽団
マーラー 交響曲第7番
どんな作品もそつなくこなす万能型指揮者ハーディングだが、そんな中でもマーラーは彼の最も得意なレパートリーではないだろうか。
新日本フィルの「ミュージック・パートナー・オブ・NJP」という実質上の首席指揮者待遇で何度も来日し、そして何度も得意のマーラーを披露してきた。
そんなハーディングがドイツの超名門バイエルン放送響と組んで7番を演奏する。彼のタクトによる公演を聴くのも5年弱ぶりだから、楽しみな公演だ。
ハーディングのマラ7は、2013年11月、上記の新日本フィルで一度聴いている。その時の印象は鮮烈だった。10年経った今でも強く残っている。
そのハーディング、うっすらと髭をはやしていたからかもしれないが、何だか精悍な顔つきなっていた。もう彼は若手の俊英指揮者ではなく、その域をとっくに通り越したような貫禄も漂っている。
出来上がった音楽も、新日本フィルの時の印象と異なる。
以前の彼のマーラーは、あたかも顕微鏡でスコアを深く覗き込み、見つけたポイントをデフォルメチックに拡大させ、グロテスクに提示。そうした実験とオーケストラの化学反応の成果を嬉々として楽しんでいるかのようだった。
今、ハーディングのマーラーには、もうそのような実験の形跡は見られない。研究や実験をし尽くし、スコアは揺るぎなく掌握。グロテスクさは影を潜め、完成品について王道を行くかのようにストレートに繰り出している様だった。
そして、何よりもバイエルン放送響の演奏能力がすごい。ゲヴァントハウス管だってバーミンガム市響だって十分に上手かったが、グレードが一つ上の感じがした。
楽団員には一流オーケストラとしてのプライドが滲み出ていて、一人ひとりの顔に自信と余裕が表れていた。一人ひとりが身体を揺さぶって演奏するため、ステージ全体が波を打つ。
こうした眺めは、ウィーン・フィルやベルリン・フィルにおいて、よく見かける。2巨塔だけの専売特許かと思いきや、バイエルン放送響にもその雰囲気が立ち込めていた。カッコよくて、ゾクゾクした。やっぱりこのオーケストラ、最高だ。
終演後のカーテンコールは熱狂。熱い喝采に包まれた。ここまでのマーラー・フェスティバルの3公演は、予想通りというか名演が続き、大盛況になっている。どうかこのままの勢いで、生涯の記憶に残る究極の演奏体験となりますように。