2023年2月3日 鈴木優人 チェンバロ・リサイタル トッパンホール
J.S.Bachを弾く2
バッハ パルティータ 全曲
以前、10年くらい前のことだと思うが、鈴木優人という名前をぼちぼちと耳にするようになった頃、私は、どうせ二世タレントならぬ“親の七光り”音楽家だと思っていた。
偉大な父の身内贔屓のおかげで、その父が創設したバッハ・コレギウム・ジャパンの将来を託される・・・。
おいおい、いいのかよ、それで。音楽家というのは、演奏家というのは、実力主義以外の何物でもないだろう。
なんだか眉唾ものに感じていた。
もちろん実際の演奏なんか聴いてもいない。ひでぇ先入観。
ところが、彼は本物だった。七光りではなく、真の実力で才能を一気に開花させていくと、そこからの躍進は目覚ましく、そして華々しかった。
BCJの指揮に留まらず、バロック音楽に留まらず、日本のメジャー・オーケストラに次々と客演し、オペラを振り、作曲し、音楽祭をプロデュースし、ピアノ、オルガン、チェンバロのソリストとしてリサイタルを行う。
八面六臂、スーパースター的活躍。今や、完全に日本の音楽界の一端を担っている。
参った。参りました。眉唾もので見ていた自分をひたすら恥じるしかない。
そんな鈴木優人さんのチェンバロによるバッハ。全席完売。
名古屋でも、所沢でも、いわきでも、ほぼ満席だったという。すごい。
まず、自分が知っているこの作品というのがG・グールドのピアノ(録音)だけであったため、チェンバロの音色が何とも新鮮。まろやかで心地良い。
そんな優しいチェンバロの音色に耳が慣れてくると、今度は徐々に広大なバッハの作品群像が姿を現してくる。
鈴木さんはそれぞれの曲に応じ、二段になっている鍵盤を交互に駆使して、変化、奥行き、陰影などの幅を広げていくのだが、あれこれと一生懸命に手を加えるというような感じではなく、あたかも淡々と作品に向き合い、バッハと会話をしているかのような泰然さが漂う。きっと、一連のリサイタルツアーや録音を通じ、作品が手中に収められている余裕なのだろう。
演奏時間は休憩も含めて約3時間。演奏する側も大変だと思うが、聴き手のこちらも大変。耳の方は十分にお腹いっぱいになったが、実際のお腹はグーグーと鳴っていたため、カーテンコールもそこそこにして退散。お疲れ様でした。