2023年1月31日 カルテット・アマービレ 王子ホール
ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会 Vol3
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第2番、第9番「ラズモフスキー第3番」、第13番/大フーガ変ロ長調
カルテット・アマービレを初めて聴いたのは、一昨年の霧島国際音楽祭。この時までそういう演奏団体があるということさえ知らなかったが、演奏を聴いて、一瞬で魅了された。同時に、私は「彼らはやがて日本の室内楽を牽引する存在になるのではないか」と予感した。
その予感は、どうやら正しい方向に進んでいる気がする。
昨年はピアノの大御所アルゲリッチとの共演を実現。そして、この王子ホールでのベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲チクルス・プロジェクトは2021年から開始し、今回が3回目なのである。
この壮大なプロジェクトは、この日、大きなヤマ場を迎えたと言っていい。
ラズモフスキー3番、それから大フーガ付きの13番は、共に傑作中の傑作であり、カルテット作品群の中でも金字塔と呼べるものだ。演奏者からしてみれば、もしかしたら体当たりしてもびくともしない壁のように感じるかもしれない。
だが、彼らは恐れない。なぜなら、このプロジェクト自体が究極の挑戦だからだ。
手強さは、積極果敢な情熱で乗り越える。エネルギーは充満し、楽器からは激しく火花が散り、音楽はほとばしって昇華する。
特に、ラズモフスキーでのフィナーレと突き進む迫力は圧巻の極地だった。
反面、緩やかな楽章では、陰影のコントラストがやや薄かったか。でも、そこらへんは「まあ多少のところは勘弁して」でいいのかもしれない。まだまだ成長過程なのだ。
つい2年前まで知らなかったのに、今ではカルテットとしてだけでなく、メンバーの皆さん個人の名前まで覚えるところとなった。
第一ヴァイオリンの篠原さんとチェロの笹沼さんはソロ活動の躍進も目に留まり、ヴィオラの中さんは新日本フィルの首席ポジションに座っている。
本公演は全席完売の満席。
もしかしたらカルテット・アマービレは、“やがて”日本の室内楽を牽引する存在になるのではなく、「もう既に」牽引している存在になっているのかもしれない。
それでいて、上にも書いたとおりまだまだ成長過程で、伸びしろが残っている。
彼らにどんな輝かしい未来が待っているのか。
その答えは、残り3回のベートーヴェン・プロジェクトを完遂させた時、きっと見えてくることだろう。