2022年9月16日 東京フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール
指揮 アンドレア・バッティストーニ
リスト 巡礼の年第2年イタリアより ダンテを読んで
マーラー 交響曲第5番
バッティストーニと言えば、情熱の指揮者である。イタリア人だし、若さもあって、エネルギー、衝動がとにかく大きい。これは単なるイメージではなく、実際にそういう熱い演奏をこれまでも何度も聴いてきた。
だから、この日のマーラーも、まさにそういう演奏が繰り広げられるのかとばかり思っていた。
相変わらずタクトは激しい。そういう意味では、やはり情熱の指揮である。
しかし、音楽そのものは意外なくらいに整然とし、洗練されていることに驚く。
これは今回の新鮮な発見であった。
つまり、本番ではタクトをブンブンと振り回しているが、リハ段階での音楽の作り込みが非常に丁寧で、スコアの解析もしっかり行っているということだろう。各パートの音色や響きがクリアに浮かび上がってくるので、作品の構成が手に取るように分かる。更に、スコアの解析だけでなく、第1楽章から第5楽章に向けて、悲嘆から希望への道筋とドラマもきちんと描いているのだ。
いや驚いた。やるじゃないか、バッティストーニ。
驚いたこと、もう一つ。
第一ホルン奏者の音が非常に強靭であったこと。
失礼だが、東京フィルの奏者からこのような音が出てくるとは意外で、びっくりだ。
以前も言及したことがあるが、日本と海外のオケ、特にドイツ系オケとで、明らかに鳴りの音にレベル差を感じてしまうのが、ホルン。これはもう、技術というより、モロ「がたい」の差なんじゃないかと思うくらい敵わないと思っていたが、文字通り吹き飛ばした感じで、爽快だった。お見事でございました。
こういう立派な演奏が繰り広げられたというのに、演奏が終わった後、盛大なブラヴォーが飛び交わないなんて・・・。
「感染予防対策のため、ブラヴォーなどの掛け声はお控えください」
いったい、これ、いつまで続けるつもりなのか。
仮に感染が収まったとして、誰か、タイミングを見計らって、解禁の宣言をするのか。
誰がやれるんだ、そんなこと。
しかも、コロナは完全死滅しない。そうである以上、リスクの責任は誰も取れない。
ということは、この美しい風習は過去の遺物として消えゆくのか。
嘆かわしい。文化の滅亡だね。