2022年5月8日 NHK交響楽団 オーチャードホール
指揮 マレク・ヤノフスキ
ベートーヴェン エグモント序曲、交響曲第1番、第5番
私もいい歳になり、気が付けば徐々に年下の指揮者が活躍するようになった。指揮者とはオーケストラの統率者であり、絶対的な王、かつ天上の作曲家と交信することが許された司祭。尊崇の対象であり、それゆえに年季が入って、風格も求められる。必然的に相応の年齢になる。
かつての巨匠たちは実に神々しかった。
最近の若い指揮者は軽い。チョー軽い。
SNSを駆使し、呟いたり、動画や写真をアップして、やたらと親近感を撒き散らす。そういう時代なのだと理解しつつも、違和感は拭えない。
親近感なんかいらねえ。アイドルじゃないんだから。ファンに媚びるんじゃねえ。
携帯で遊んでいるヒマがあったら、スコアの研究してろ。作品とだけ向き合ってろ。
ヤノフスキは、携帯電話を持っていないそうだ。もしかしたら、SNSの意味さえも知らないかもしれん。
いやー最高だな。指揮者なんて、それでいいんだよ。頑固一徹の爺。
ヤノフスキは、そうした職人気質を感じさせる数少ない巨匠の一人と言っていいだろう。
そんなヤノフスキのベートーヴェンである。悪いわけがないじゃないか。
引き締まった響き。テンポは柔軟性を備え、重厚という感じではないが、峻厳さを湛え、揺るぎない。タクトの動きは無駄がなく機敏。聴こえてくるのは「ザ・ベートーヴェン」。
いやー最高だな。聴衆はそういう音楽を求めているのだ。
我々だって好みはある。お気に入りの演奏もある。
でもそれ以上に、有無を言わせぬ説得力に圧倒されたいのだ。カリスマにひれ伏したいのだ。
それが出来るのは一握りの選ばれし者。
ヤノフスキは、そうした資格を持つ数少ない巨匠の一人と言っていいだろう。