2022年4月10日 東京・春・音楽祭 歌曲シリーズ
リカルダ・メルベート ソプラノリサイタル
フリードリヒ・ズッケル(ピアノ)
モーツァルト 魔笛より「愛の喜びは露と消え」
ワーグナー ローエングリンより「エルザの夢」、さまよえるオランダ人より「ゼンタのバラード」、トリスタンとイゾルデより「イゾルデの愛の死」、神々の黄昏より「ブリュンヒルデの自己犠牲」
R・シュトラウス エレクトラより「エレクトラのモノローグ」 他
一人のソプラノ歌手の歌声にビリビリと痺れながら、高揚感と幸福感に思い切り浸る。
この興奮は久しぶりだ。いったいいつ以来だろう?
フランチェスコ・メーリの感動から1年2か月。ソプラノだと・・・2018年10月、あのグルベローヴァ様以来、ということなのか・・・。何ということ!
再び感傷的な気分に陥る。
私が初めてメルベートを聴いたのは、2001年ウィーン。R・シュトラウス「エレクトラ」公演で、クリソテミスの役だった。ちゃんと覚えている。声質は透き通り、あたかも蒸留水のようなスッキリとした味わいだった。
一方で、決して声量で圧するタイプではなかった。だってクリソテミスですからね。
それが、今ではエレクトラなのである。
ホールを制圧し、聴衆を金縛りにするほどのパワーを手に入れ、ドラマチック系を完全に確立させつつある。(今回の来日で、別の日には「トゥーランドット」も歌うのである。)
20年という歳月の中、まさに進化の変遷を目の当たりにしているようで、これはこれで感慨深い。
歌っている時の表情も本当に素敵。
エルザを歌っている時はエルザの顔になり、ゼンタの時はゼンタの顔になり、イゾルデ、エレクトラ、そしてブリュンヒルデ。
それぞれの役で、燃える瞳で真っ直ぐを見据えている。リサイタルでありながら、歌とその瞳で私たちを惹きつけ、オペラの場面へと誘う。
残念だったのは、決してキャパが大きくないホールで空席が目立ったこと。
なぜ?
同時間帯に文化会館でマーラー3番の公演があったからか?
いやいや、交響曲よりもオペラが好きな愛好家いるでしょ? その人たちはどこで何してたの?
そんな人達に一言言わせていただく。
「諸君、残念なことをしたな、逃した魚は大きかったぞ」と。