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ソヒエフの決断

ロシアの指揮者T・ソヒエフが、ロシアのボリショイ劇場音楽監督と、西側諸国内での拠点であるトゥールーズ・キャピトル管弦楽団音楽監督の両方のポストを同時に辞任した。
梶本音楽事務所が発表した彼の声明を読んだが、これは辛い。

https://www.kajimotomusic.com/news/2022-03-07/

なんという苦渋の決断であろう。ソヒエフは追い詰められてしまったのだ。

もちろん、原因はロシア政権であり、プーチンである。世界中が「悪いのは彼だ」と非難している。
だが、我々は今、その責任の一端をロシア人個人にも向け、追求し、断罪しようとしているである。ロシアの一個人に対し、「自国の政権を支持するのか、それとも我々の側に付くのか」と問い質し、究極の選択を迫っている。

ゲルギエフの場合は、彼が明らかにプーチンに近かったということで、ある程度仕方がなかったと思う。
だが、ソヒエフはどうだったのか。私には、祖国を愛し、ロシア人であることに誇りを持ちながら、同時に平和を希求し、民族を越えて音楽を通じた融和を固く信じようとする一人の人間のように見える。

そんな彼が、祖国を支持すれば西側諸国の活動を奪われ、西側を支持すれば祖国から裏切り者扱いを受けるという狭間に立たされる。その結果、ロシアと西側の両方のポストを同時に辞する決断を強いられる。

それはやっぱり仕方がないことなのか。ロシア人である以上、そのツケを払わないといけないのか。


現在、日本を含む西側陣営でロシアに対する強力な経済制裁を発令しているが、それによって苦しむのはロシアの一般市民だろう。

果たして彼らは反省するだろうか。プーチンを政権から引きずり下ろすだろうか。
逆に一致団結して苦境を耐え忍びつつ、西側に対する恨みを増幅させる、ということにならないだろうか。

そうだとすれば、世界は一層分断化が進む・・・。

ソヒエフは語っている。
「音楽は、異なる大陸や文化の人々、アーティストたちを結びつけ、国境を越えて魂を癒し、この地球上の平和を愛する全ての存在に希望を与えてくれるものです。」
「音楽家は幸運なことに、音楽という国際的な言語をもち、時として文明社会に存在するどの言葉よりも雄弁に語れるのです。」

楽家の使命として、音楽を通じて世界の融和を図る。音楽によってそれが可能であることを固く信じているソヒエフが追い込まれ、その活動を阻まれる。

私は、ただただ悲しい。