クラシック、オペラの粋を極める!

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2021/9/11 二期会 魔笛

2021年9月11日   二期会   東京文化会館
モーツァルト   魔笛
指揮  ギエドレ・シュレキーテ
演出  宮本亞門
管弦楽  読売日本交響楽団
妻屋秀和(ザラストロ)、金山京介(タミーノ)、安井陽子(夜の女王)、嘉目真木子(パミーナ)、萩原潤(パパゲーノ)、種谷典子(パパゲーナ)、高橋淳(モノスタス)    他


リンツ州立劇場と共同制作し、これで3回目となる再演版。
なのに、私は今回初めて観る。
国内で新演出されるオペラ上演なら、大抵観たい衝動に駆られてチケットを買うはずなのに、なぜ見逃していたのだろう・・。
などと言いつつ、答えは自分でも分かっている。

要するに、自分にとって魔笛はどうしても観たいオペラ作品ではない、ということなのだ。

なんとなく・・・はっきり「どこが」とは説明できないが、なんとなくつまらないと思っている。
モーツァルトの作品に対して「つまらない」とは随分と言ってくれるじゃんか、と突っ込まれるかもしれない。私の知り合いでも、「モーツァルトで一番好きなのは『魔笛』」と答える人が何人かいるというのに。
でも、好みの問題なんだから、仕方がないんだよな。
随分と前、ウィーンで観た時、天下の国立歌劇場の上演をもってしても「つまらんなー」と思ってしまった。
その時、現地で偶然知り合った人と終演後に語り合い、正直な気持ちを話したところ、その人はこう言ったのだ。

「まあ、魔笛魔笛だよねー(笑)」

この「なんだかよくわからないけど、さもありなん」の一言こそ、私の気持ちを見事に代弁し、言い得て妙、一番しっくりくる表現なのであった。


えー、私の鑑賞記は本題とは関係ないところから入って回り道するという悪い癖があるが、話を本公演に戻そう。

話題になっているのは、宮本亞門氏が手掛けた斬新な演出。観た目に楽しく、なるほど再演を重ねられる理由が分かる。プロジェクションマッピングを利用した創造的な舞台は、確かに目を見張り、効果的だったと思う。

特に、宮本さんがさすがだと思うのは、映像のタイミング、役者の演技、動きなどがきちんと音楽に合っていること。ちゃんとモーツァルトの音楽を土台にしており、オペラ演出家としての心得を分かってらっしゃる。
もっとも宮本さんは常日頃からオペラ愛に溢れている方なので、本人からしてみれば「当たり前でしょ!」ということかもしれない。

一方で、個人的にツッコミしたいところもある。
夫婦間が上手くいっていない現代の家庭の旦那が、TVゲームの仮想世界に飛び込み、試練の体験を経て、再び円満な家庭を取り戻す、というアイデア自体は良い。
だが、仮想世界に飛び込んだ後は、単なる元の魔笛の物語に置き換わってしまって、一貫性が感じられない。コンセプトのとおりなら、「普通のサラリーマンがファンタジーの世界に紛れ込む夢と冒険の物語」であるはずだが、サラリーマンとは何の関連性もないタミーノの物語が展開。
それ故に、最後に現代に戻って夫婦間で仲直り、というのが、いかにも取ってつけたようなこじつけ、無理やり帳尻を合わせる形になってしまっている。これはちょっと興ざめだ。

ラストの場面で、こうした帳尻合わせの寸劇の犠牲により、合唱の大団円が省かれたのも、大いに不満。
ラストの合唱の大団円というのは、スペクタクルであり、カタルシスであり、オペラの醍醐味である。これを舞台裏に隠してしまった罪は大きい。
まさか、コロナ対策だったというわけじゃないよな??


指揮のギエドレ・シュレキーテは、代演による初来日。
彼女の切れのあるタクト、切れのある音楽こそ、本公演の白眉だ。
やる気十分、気合十分、モーツァルトを指揮する喜びに満ち溢れた、明るく前向きな音楽。

彼女のような新進気鋭の若手指揮者を見つけ、抜擢して連れてきたのは、主催団体の見事な功績、お手柄だ。
今、彼らは活躍の場を求めている。ましてやコロナ禍。
シュレキーテは今回の客演をきっとチャンスと捉えたはずだ。だからこそ、2週間隔離の困難を受け入れてくれたのだと思う。

まだまだ厳しい状況がしばらく続きそうだが、日本の各オーケストラも、安易にスケジュールが空いている国内の指揮者に頼らず、こうした指揮者を見つけ出す努力を怠らないでいただきたい。


歌手について。
細かい部分に目をつぶれば、十分に満足のいく出来栄えで、とても感心した。
ほんの二週間前に難曲ルルに挑戦し、大成功を収めたばかり。同時並行で魔笛のリハを重ね、これはこれで素晴らしい成果を上げたとなると、私のこれまでの二期会評価について、再考する必要がありそうだ。
もしかして、今、二期会に上昇気流が発生している?? まさか・・。
コロナ禍なのに?? 
コロナ禍だから、なのか??

そして、来年にはシュトラウスの大作、「影のない女」が控える。
これはもしかして、ひょっとして・・・。

魔笛」やってその後に「影のない女」というのも、センス光るよね。
(オペラファンなら、その意味はお分かりのはず。11月に「こうもり」やるけど、それはまあいいとして(笑))