クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2020/10/18 神奈川県民ホール・オペラ トゥーランドット

2020年10月18日   神奈川県民ホール・オペラ
プッチーニ  トゥーランドット
指揮  佐藤正浩
演出・振付  大島早紀子
管弦楽  神奈川フィルハーモニー管弦楽団
合唱  二期会合唱団、赤い靴ジュニアコーラス
ダンス  H・アール・カオス(メインダンサー:白河直子)
岡田昌子(トゥーランドット)、デニス・ビシュニャ(ティムール)、芹澤佳通(カラフ)、砂川涼子(リュー)、大川博(ピン)、大川信之(パン)、糸賀修平(ポン)   他


何とも言えない当惑だ。
以前から私は「日本では、本格的なコンサートを鑑賞する機会は多々あるが、本格的なオペラを鑑賞する機会はほとんどない」と嘆き、不満ブー垂れていたわけである。
そんなわけだから、「ふん、いいさ。だったら、海外に行って本場のオペラを観るさ。」なんてほざいていたわけである。

だというのに、今はどうだ。
欧米は第二波、第三波の真っ只中。劇場の閉鎖、公演の中止や延期が相次ぎ、困難な状況が続いている。一部、公演を催行している劇場もあるが、行った先や帰国後における自主隔離問題等もあり、とてもじゃないが行けない。

翻って日本では、困難な状況は同様に存在しつつも、9月に二期会で「フィデリオ」、今月は新国立で「真夏の夜の夢」、そして本公演「トゥーランドット」と、2か月で3つのオペラの本格上演鑑賞が実現しているのである。

これは本当にすごいこと。
公演開催実現に向けた関係者の方々の並々ならぬ努力に加え、感染対策における国民一人一人の地道な取組みが功を奏しているわけだ。
日本もまだまだ捨てたもんじゃない。


さて、今回の「トゥーランドット」である。
演出を担当した大島さんは、コロナ禍の中、重い課題に直面し、頭を抱え、御苦労されたことと思う。
「ソーシャル・ディスタンスをどう確保するか」なんていうのは、単なる技術的な問題。
問われているのは、「この状況下において上演する意味、意義」であり、「人々にとって大切な物は何なのか」、「このオペラの上演で、人々に何を届けられるのか」というのを見つけ出すこと。

配布されたプログラムには、そうしたことに思いを馳せつつ、大島さんがこの作品から何が読み取れたのか、御本人の見解が掲載されていた。

曰く、『3つの謎、「希望」、「血潮」、「トゥーランドット=愛」こそ、今まさにこの世界で必要とされている物。リューの自己犠牲が「愛」を教え、人生に対しての肯定「希望」を取り戻させ、自己の内部からの生命力「血潮」を湧き出させた。』

なるほど、素晴らしい解釈ではないか。

以上のとおり作品の中からメッセージを汲み取ったのであれば、あとはそれをいかに舞台に落とし込んでいくかという作業になる。
落とし込みの仕方や手段に関しては、大きな苦労はなかったはずだ。自ら率いる舞踏集団「H・アール・カオス」を用いてどのような形に表現するか、そこだけに専念すれば良いのだから。
引き出しは十分備わっている。これまでの実績が大いに物を言うわけだ。

いつものとおり、ロープ(ワイヤー)を使ったアクロバティックな舞踏が生み出す躍動感が半端ない。力強く、自由自在で、舞台空間に無限の奥行きと可能性を漂わせる。

観客は、そのスペクタクル性に単純に驚嘆し、圧倒される。目が釘付けになりながら、閉塞感溢れる今の状況を一時だけでも忘れ、演出家の狙いのとおり、舞台から「希望」を感じ取ることが出来た。
私自身も、「舞台芸術とは、人間が人間らしく生きるための糧」なのだということを、改めて認識することが出来た。

つまり、「この状況下において上演する意味、意義」は、十分に伝わったということだ。


歌手では、タイトルロールの岡田さんにとても感心した。
決して大きい声ではなく、強靭さが前面に出るタイプではないが、声に芯があり、光線のような輝きがあって、ストレートに心に響いてきた。立ち振舞も凛として美しく、冷酷な氷のお姫様から愛に目覚めていく過程の繊細な表現力も見事。

リュー役の砂川さんも素晴らしかった。ただ、リューのアリアは、いつでもどこでも誰が歌っても心に染み入る。なので、持ち上げる際は、若干その部分は差し引くこととしよう。
カラフ役の芹澤さんは、演技も含め、やや荒削りのように感じたが、将来性は感じられた。もう少し熟成を待ちたいと思う。

音楽全体を束ねた指揮の佐藤氏も、立体的な音響を構築させ、この音楽の醍醐味を存分に聴かせてくれた。


以上のとおり、上演そのものは大成功に導かれた。
だというのに、カーテンコールで、ダンサー、歌手、指揮者、演出家に対し、盛大なブラヴォーの掛け声を贈ることが出来ないのは、とにかく残念としか言いようがない。
寂しい。寂しすぎる・・・。