2020年12月5日 東京交響楽団 サントリーホール
指揮 鈴木雅明
児玉桃(ピアノ)
モーツァルト ピアノ協奏曲第21番
シューベルト 交響曲第8番 ザ・グレート
本来なら、この公演はミケーレ・マリオッティが振る予定だったんだよな・・。
イタリアの俊英マリオッティを呼ぶとは、東響もなかなか目ざといじゃんか、やるじゃんか、と思ったんだが、残念。
それでも、プログラムを変更しなかったのは賢明だ。
たとえマリオッティが来なくても、私は「グレートを聴きたい」と思い、チケットを買った。このように出演者ではなく曲を楽しみにしてコンサートに出かけるお客さんというのは必ずいるのである。
代役の白羽の矢が立てられたのは、バッハ研究と古楽演奏の権威である鈴木雅明氏。
今回のプログラムはバロックではないが、いわゆる古典物であり、鈴木さんの持ち味で磨かれたサウンドに期待がかかる。
思い出すのは、現桂冠指揮者ユベール・スダーンとのシューベルト・チクルスで披露した鮮烈な演奏だ。
あの時スダーンと東響は、モダン楽器によるピリオド奏法で斬新なアンサンブルを創出し、聴衆を驚かせた。あの新鮮な感動をもう一度味わいたいという欲求が湧く。
さて、鈴木さんの音楽であるが、基本アプローチは、枠組みをしっかりと構築させた様式美の追求である。音色や響きというより、強弱や明暗のコントラストを際立たせようとしているのがポイントだ。
一方で、奏法は完全なピリオドではなく、ヴィブラートの弱めの使用など、開放的。
それは、コテコテのバロックではなく、むしろ曲の中に垣間見えるロマン派時代の到来の予感を捉えたからで、意図的だろう。妥協の産物ではないと思う。
さらに目を見張ったのはタクトからほとばしる熱量で、これによって強大かつ大胆な表現力を手に入れていた。
なるほど、バロック演奏の第一人者だからといって、作風をすべてそこに収めてしまうのではなく、作品や時代に応じた柔軟性を採り入れる懐の大きさを兼ね備えていて、それをしっかり見せつけたというわけだ。
それにしても、近年の鈴木さん親子の活躍は目覚ましい。お二人ともBCJに留まらず、レパートリーを拡大させながら在京メジャーオケに次々と進出している。
つまり、古楽のスペシャリストという枠を越え、純粋に有能な指揮者として、親子共々完全に認められているということ。すごいですね。