2020年12月4日 読売日本交響楽団 東京芸術劇場
指揮 マキシム・パスカル
反田恭平(ピアノ)
望月京 むすび
ラヴェル 左手のためのピアノ協奏曲
ドビュッシー 交響詩海
ラヴェル ラ・ヴァルス
シノーポリとフィルハーモニア管が来日し、マーラー交響曲全曲チクルス演奏で華々しく幕を開けた東京芸術劇場。あれから30年経ったというわけですね。
施工した東京都の当時の思惑は、鼻息荒く、「ちょっと古くなった東京文化会館に代わる新たなクラシックコンサートの殿堂を造る」だったと思う。まあ、バブル期だったしな。
残念ながらその思惑は少々外れてしまったようだ。
それでも、近年は独自の企画を打ち出した主催公演を行っていて、少なからず、東京の芸術文化事業の一翼は担っていると思う。まあ、よろしいんじゃないでしょうか。
そんな中で迎えた30周年記念公演。
本当だったら、外来オーケストラを招聘するなど、もう少し記念公演らしく派手に飾り立てたかったところだろうが、パンデミックのさなか、読響とのフツーのプログラムで地味に祝宴。
しかも、せっかく日本の現代作曲家に30周年記念委嘱作品を依頼したのに、どういうわけか2010年の東京フィル創立100周年記念委嘱作品に差し替わっちゃって、なんとも言えない残念感が漂う。
まあまあ、これもよろしいんじゃないでしょうか。見栄えなんか気にする必要なし。東京芸術劇場らしく行こうぜ(笑)。
指揮者はフランスの若手マキシム・パスカル。来日後の2週間の隔離を経ての登場。
私は「延期になっちゃった二期会のルルを振る予定だった指揮者」くらいの情報しか知らなかったが、今回の演奏、すごく良かった。もしかしたら今後、注目すべき指揮者かもしれない。
本公演に足を運んだ人なら(もちろんこれまでに彼の指揮を見たことがある人も含めて)、長い手を振り回し、腰をフリフリ、ダンスのような活気のあるタクトに目を奪われるだろう。
だが、着目すべきはそうした指揮姿ではなく、引き出された音楽の鮮やかさだ。
オーケストラの音の作り方がとにかく精緻。音を細かく拾っている。それはつまり、スコアの解析能力が優れている証でもある。
例えば、今回のプログラムの左手コンチェルトとラ・ヴァルス。
両作品とも冒頭の部分で低音楽器が弱音でうごめくため、ゴニョゴニョしてよく聞き取れないことが多いのだが、見事なまでにクリアに聞こえたのは新鮮な驚きだった。
ラヴェルにしてもドビュッシーにしても、響きの作り方が手が込んでいる。
これを単に「得意の自国作品の披露だし・・」で済ませてはいけない。こうした鮮やかな響きを編み出せるのは、フランス人だからではなく、ひとえに指揮者個人の才能の賜物なのだ。
あとは、二週間ホテルに籠もってスコアを勉強した成果かも??(笑)
ソリストの反田くん。若いのに風格があって、独自のピアニズムを形成し、もう既に完成されている。
彼のショパンコンクール出場の動向は気になるところだが、入賞するしないに関わらず、時代を牽引するピアニストに成長していくことは間違いないだろう。