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2020/1/18 N響C定期

2020年1月18日   NHK交響楽団定期演奏会   NHKホール
指揮  クリストフ・エッシェンバッハ
ツィモン・バルト(ピアノ)
ブラームス  ピアノ協奏曲第2番、ピアノ四重奏曲第1番(シェーンベルク管弦楽版)


配布されたプログラムの指揮者紹介欄には、「1987年に指揮とピアノをツィモン・バルトと相互に担い、ブラームスの2つの協奏曲を共演」と書いてある。
私は1996年に、ウィーンで、このお二人の「指揮とピアノ相互担当によるブラームスの2つの協奏曲共演」を聴いた。オケはウィーン交響楽団
この時は、1番を弾いたのがバルト、2番がエッシェンバッハだった。

近年、エッシェンバッハは専ら指揮者の活動が軸なので、「指揮とピアノを相互に担当して」という面白い企画は、今はほとんどやっていないかもしれない。
それでもこうしてバルトとの共演を長年続け、再三ブラームスを採り上げている。これはなかなか興味深い。このコンビで同曲のレコーディングもしているというし、きっと強い信頼関係の中で、お互いにこの作品の演奏に確固たる自信が存在しているのだろう。
エッシェンバッハは、自身が性的マイノリティであることを公言しており、そのパートナーがバルトという噂を聞いたことがある。でも、詳しくは知らないし、そもそもそんな事は私にとってどうでもいい。)

上に書いた、24年前のウィーンでのバルトのブラームスがどういう演奏だったのかについては、完全に記憶から消えている。だが、今こうして聴いてみると、かなり個性的だ。
テンポは遅めで、大小強弱のコントラスト強調が目立ち、なんだか作品を分解しながら捉えているように聞こえる。これは結構、聴く人によって好き嫌いが分かれるだろう。

まあ、個性というのはあっていいものだし、私としては色々な演奏を懐を広げて受け入れ、できるだけ楽しみたいと思う。第3楽章のアンダンテで、極限にまで弱音に落としたピアノの夢見るような旋律と、チェロのソロによる優美な掛け合いは、とても見事で聴きものだった。

後半のメイン曲は、「エッシェンバッハの真骨頂がついにここで飛び出したか」という率直な驚きを伴って聴いた。

エッシェンバッハは、ウィーン・フィル定期公演に頻繁に招かれるほどの実績のある名指揮者なのだが、私にとっては、正直これまでどうも、なんていうか、ガツンと来ない指揮者だった。

その理由はなんとなく思い当たる部分がある。ホント申し訳ないけど、タクトがバタバタしてカッコ良くないという、見た感じの印象が大きいのではないかと思う。

「タクトのカッコ良さじゃなくて、引き出された音楽こそが重要だろ!?」というのは、そのとおりである。
でもねぇ、人間、見た目に騙されちゃうんだな。見た目っていうのは大事なんだな。

ところが、今回のピアノ四重奏曲オケ版は、ガツンと来た。見た目の印象を越え、克明かつ流麗な音楽描写が秀逸だった。
はっきり分かった。
そうなのだ。彼にとってタクトとは、オーケストラをリードするための誘導灯ではなく、自らの音楽を描くための筆だったのだ。そこに、カッコ良さや分かりやすさは必要がないのだ。

それに気がついたら、あのタクトが、途端に溌剌としてキレがあるように見えた。
不思議なもんだよな。