2019年12月9日 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ムジークフェライン
指揮 リッカルド・ムーティ
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番 皇帝
ストラヴィンスキー 妖精の口づけより ディヴェルティメント
レスピーギ ローマの松
ムーティがフィラデルフィア管弦楽団と1984年に録音した「ローマ三部作」は、名演である。
音楽は色彩に満ち、躍動感に溢れ、とても輝かしい。テンポもリズムも快活。「松」「祭り」「泉」という表題だが、「ローマの人々」と言い換えてもいいのではと思うくらい、人情的で生き生きとしている。
こうしたムーティの作品解釈を、オーケストラが見事な演奏で体現化している。かつて「華麗なるサウンド」と銘打たれたフィラ管の全盛期を彷彿とさせる、このコンビ最高の結実成果の一つだ。
その後、ムーティは1996年にスカラ・フィルと来日し、ローマの松を披露した。
演奏の様子は今でも覚えている。素晴らしかったのは間違いなかったが、スカラ・フィルの線の細さが気になってしまい、「うーん、ちょっと違う」と感じてしまった。たぶん、フィラ管の録音が前提にあって、期待をかけすぎてしまったのだと思う。
今回は、なんと言っても天下のウィーン・フィルである。あの究極の演奏をやってくれるのではないか。
やっぱり期待が膨らんでしまうが、この衝動はもはや抑えることができないのであった。
ということで、当初フランクフルトでの鑑賞を終えて帰国しようとしていた計画を一日延ばし、ウィーンにやってきた。
さて、この日の演奏で、まず見受けられたのは、ウィーン・フィルとマエストロ・ムーティとのなんとも言えない良好な関係であった。信頼の、更に上を行っている感じ。相思相愛、蜜月、何十年も続いているラブラブ、みたいな。
ムーティがタクトで「ここはこうだ!」とばかりにブンと振ると、オケが「マエストロ、分かってますよ。こういうことですよね?」みたいに、ニコッと笑って応える。
すると今度はムーティが「およ!? さすがだねえ。」と目を細めてやっぱりニコッと笑う。
なんとも言えないポカポカした雰囲気。いやいや、もっとビシッとやってくださいよ、マエストロ。
円満関係が見えたのは、ソリストも同じだった。
ブッフビンダー、得意中の得意であるはずの皇帝協奏曲、自ら主導権を得て、音楽をグイグイ引っ張ることだって出来ただろう。
「Your Majesty,仰せのとおりにいたします」みたいな、従僕の演奏。完全にムーティを尊敬しちゃっているのだ。時折り指揮者を見つめる瞳の中には、憧れのハートマークが写っている(笑)。
だーかーらー、ビシッと行け、ビシッと!
ローマの松。
いやあ、これはさすがにウィーン・フィル。すげえ音。豪壮にして絢爛。
アッピア街道での大音響炸裂は、もうヤバい。
「もう卒倒して死んじゃうかも」
なんて思いきや、実は少しだけ冷静になって聴いている自分がいる。
濃密かつ重厚なローマの松。「これは果たしてムーティの『ローマの松』なのだろうか??」
なんか違う気がする。
これはきっと、ウィーン・フィルの「ローマの松」。うん、たぶん、きっとそう。
そんなウィーン・フィルの「ローマの松」を、マエストロ・ムーティはおおらかに許しちゃう。
「ほら、こうですよね、マエストロ。分かってますよぉ!(笑)」
「んもう、ったく・・・。君たちには参ったよ。」
最後までラブラブだった。こらー!