2018年4月28日 コブレンツ劇場
指揮 エンリコ・デランボイエ
演出 アレクサンダー・フォン・プフェイル
ニコ・ウォウテルセ(森の番人)、ハンナ・リー(ビストロウシュカ)、アンネ・カテリーヌ・ワーグナー(森の番人の妻)、イ・ジュンホ(校長)、セバスティアン・ハーケ(パーセク)、ハンナ・ラリッサ・ナウジョクス(雄狐)、クリストフ・プレッサーズ(ハラシタ) 他
人口たった11万人の小都市にも、本格的なオペラを上演する劇場がある。いやドイツって本当にすごいね。羨ましいね。
キャパはどれくらいだろう。500くらいだろうか。
チケットの価格はだいたい2千円から6千円くらい。公演の二日前に慌てて買った私のチケットはカテゴリー3で、たったの3千円だった。もちろん税金が投入されているからだろうが、鑑賞者にとってなんとありがたいことか。
さて、オペラを観た感想であるが、非常に満足した。
決して値段相応の満足度ではない。レベルは高く、出演歌手もオーケストラも、一端のプロの域に十分に達している。
中小劇場らしく、舞台装置は簡素だ。だが、そこで展開される演出構成は、私の考える限り、「この作品へアプローチするにあたっての、望み得る最高のアイデア」と断言できる。
タイトルにもあるとおり、このオペラの主役は女狐。それ以外にも多くの動物が出演する。着ぐるみを着せて、子供向けおとぎ話風、戯画風に仕立てるのが、いわゆる一般的、正統的なやり方なのだろう。
だが、間違いなく言えることだが、このオペラは決して子供向けではない。
動物は人間の性(さが)を映した鏡。大人の人間の有り様を風刺し、男と女の愛憎が交錯し、そうした営みは年代を超えて脈々と継続継承される、という実に深いお話である。
また、結構エロチックな場面もあって、これを子供向けのためにぼやかしてしまうと、一気に薄味になってつまらなくなる。
だから、別に動物の着ぐるみを着せずとも、人間がそのまま立ち演じていいのだ。ていうか、そうするべきなのだ。それで十分に分かるし、十分に共感を得られる。エロチックな場面をエロチックにやってこそ、物語の本質が見えてくる。
要は、この演出はそういうアプローチだったわけ。
演出家にしても、ソリストにしても、オケのプレーヤーにしても、彼らは今、たまたまここコブレンツ劇場に在籍しているが、格上の他劇場に空席があると聞けば、オーディションに臨み、ステップアップを図ろうという上昇意欲の持ち主ばかりだ。
中小劇場には、こうした若いパワー、気勢が感じられる。そして、時々、その中に金の卵が隠れている。
今回は、そうした雰囲気や可能性を大いに体感した鑑賞体験だった。