クラシック、オペラの粋を極める!

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2016/12/23 スカラ座 蝶々夫人

2016年12月23日  ミラノ・スカラ座
プッチーニ  蝶々夫人(初演版)
演出  アルヴィス・ヘルマニス
マリア・ホセ・シーリ(蝶々夫人)、アンナリサ・ストロッパ(スズキ)、ブライアン・イーメル(ピンカートン)、カルロス・アルヴァレス(シャープレス)、カルロ・ボージ(ゴロー)   他
 
 
ヘルマニスの演出、というか、美術、装置、映像が描く全体の構図がとても美しい。
大胆な演出も辞さないヘルマニスが、大きな読替えをせず、ジャポニズムに真正面から取り組んでいたのは、少々以外だったが、何だか嬉しく、感心した。
 
と、ここで、一言。
この公演のプレミエは、今月23日、NHK-BSプレミアムシアターで放映される。ご覧になる方、楽しみにしている方もいらっしゃるだろうが、その方々に申し上げたい。
 
衣装、メイク、それから演技で振り付けられた登場人物のわざとらしい所作。
これらについては、「そうじゃねえだろ!そりゃ違うだろ!」と、突っ込みを入れたい衝動に駆られると思う。我々は日本人だから、日本人として違和感が生じるのは当然だし、正したくなるのも当然だ。
 
でも、そこに固執し、あげつらって「違うんだよなあ」とか言っていると、このオペラの本質が見えなくなるということ。そこは絶対に肝に銘じた方がいい。
 
違って当たり前じゃないか。外国人が演出しているんだぜ。
「そうじゃないよ」と指摘したところで、「だから?それが何か?」と言われるのがオチだ。
演出家ヘルマニスにとって、この演出のポイントはリアリズムの追求ではない。だからそうした指摘は、はっきり言って意味がないのである。
 
私がヘルマニスを賞賛する点、それは演出に「様式美」を取り入れたことだ。上に書いたとおり、全体の構図が美しいと見えたのは、その成果である。
まず「形」を作り、「型」を作る。象徴的な背景を絵で見せ、人物にポーズをとらせ、踊りを採り入れる。そうすることで、リアリズムではなく「らしさ」を浮かび上がらせる。
 
おわかりだろうか、これ、日本の演劇の伝統的やり方である。すなわち歌舞伎の流儀なのだ。
 
ヘルマニスは「なぜ蝶々夫人はそこまでしたか、何がそうさせたのか」を探求した。その謎を解くカギを見つけるために、日本の演劇の伝統手法(歌舞伎)にヒントを求めた(のではないかと推測)。
もちろん歌舞伎を単に真似したのではなく、欧州人の目で見つめた。「様式美」という方式に着目し、そこからアプローチを試みた。
その結果、舞台を型にはめることで、蝶々夫人の日本人らしさ、彼女の気高さ、一途さ、芯の強さが一層強調された。
 
欧州の演劇スタイルとはまったく異なるアプローチ。それを積極的に採り入れ、受け入れる度量。私が称えたいのはそこ。敬意を表したいと思う。
 
演出について、もう一つ。
たまたま私にはそう見えただけで、実際の意図はどうだったのかはよく分からないが、蝶々夫人が自害する所で子供が出てくる場面。
スズキが連れてきたのだ。彼女が子供の背中を押し、母親のところに向かわせたのだ。(私にはそのように見えた)
蝶々夫人の自害という決断、恐ろしい覚悟を揺るがし、翻意させるためにはもうこれしか方法がない。最後のチャンス。考えを巡らせたスズキの必死の試み。
これはかなりグッときた。
 
シャイーの音楽について。
初演版のことに関しては、もう書いた。だから繰り返し言わない。
純粋に演奏面について述べると、ものすごく手慣れていて、「スコアを手中にしているなあ」という印象だ。
タクトには力が込められているが、あまりドラマチックになりすぎないようにし、美しいパッケージとしてまとめている。初演版の再認識という意味では、成功したと言えるだろう。カーテンコールでも盛大なブラヴォーがかかっていた。
 
歌手について。
蝶々夫人のシーリ、抑制を効かせた清楚な歌いっぷりだったが、これはおそらくシャイーの解釈(上で書いた「ドラマチックになりすぎないように」)に従ったものだろう。指揮者の音楽に忠実で、タクトの中でやれることをやったという印象である。
 
二年連続開幕公演出場のアルヴァレスは、落ち着きがあり、貫禄があり、シャープレスという役にうってつけ。歌も上手くて好演だった。
 
ピンカートンのイーメル。音楽誌の記事や情報等の記載ではハイメルだったりヒンメルだったりで、呼称はイマイチ定まっていない。(私自身もどう表記していいのか迷っている。)
つまり、日本ではまだ知名度を確立していない。これまで聴いたことがなかったが、良い評判は聞こえていたのでちょっと期待していた。
結果はというと、まあ普通。スペシャルなテノールだとは思えなかった。そもそも声が個人的にあまり好みではない。別の役で改めて聴いてみたいとは思った。
 
登場人物で一番胸を打ったのは、実はスズキのストロッパ。歌唱もそうだが、表情や立ち振舞いも含めて一番役にハマっていて、素敵だった。スズキは脇役だがとても重要人物。それを改めて気づかせてくれただけでも、彼女の貢献(演出の力も大きいが)は計り知れない。