クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

映画「ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿」を観て

旅行から帰ってきたばかりだったので年末年始は基本的に自宅でゴロゴロしていたが、一日、映画を見に出かけた。「ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿」という映画。ちょうど現地で鑑賞してきたばかりという、ナイスなタイミングである。
 
伝説の歌手、往年の巨匠、世界的なスターたちが多数出演し、「スカラ座は特別」と異口同音に語る。この劇場がいかにスペシャルであるかが紹介され、輝かしい伝統を誇る劇場の姿は、十分に伝わってくる。
単に劇場の魅力について語るインタビューを並べただけではない。
一昨年に上演した「フィデリオ」の開幕プレミエを迎えるまでのドキュメントを追ったり、栄華の歴史を紹介する中で役者が当時の人物を扮して演じたり、裏方の仕事にまでスポットを当てたり、といった演出が、「ドキュメンタリー番組」ではなく「映画」としてちゃんと機能し、成立していて、完成度を高めている。
 
ただし、私自身にとっては、情報という意味では新しい発見は何もなかった。
どちらかかと言えば、マニア向けというより、たまに外来オペラの来日公演に足を運び、海外オペラ鑑賞ツアーなどのパンフレットを手に取りながら「いつかは行ってみたいな」と憧れるような人たちにお勧めだ。
 
私なんかは「スカラ座の厳しい現状」というのを知っているので、もはや昨今のスカラ座は「イタリアオペラの総本山」ではなく「単なる世界の一流歌劇場の一つ」としか見ていない。だから、「燦然たる」「栄光の」などと称賛するのを見ると、ちょっとシニカルに「ふっ・・」とニヤけてしまう。
(現在、「超一流」「ゴージャス」においてダントツ、比類がないのは、実はミラノでもウィーンでもなく、ザルツブルク音楽祭であることは紛れもない事実である。)
 
 
ところで私は、クラシック番組専門チャンネル「クラシカジャパン」を視聴契約し、欧州で製作する音楽ドキュメンタリー番組をよく見るのだが、欧州にはこの映画にも共通する特徴的な編集手法が存在するのを、感じる。
それはインタビューにおいてだ。
 
映像作品を構成させるために、インタビューでは、出演者や関係者たちに対して、それなりの時間をかけ、様々な質問をし、様々な回答をもらっているはずである。
もし日本の番組制作者なら、そうした質問と回答をじっくり紹介させるだろう。マイクを向けられた一人の人間が何を語るのか、余すところなく伝えるだろう。
 
ところが欧州の制作では、違う。
その人たちが語った長い話の中から印象的な部分を断片的に短く切り取ってしまう。そうしてカットした断片の言葉を、たくさんのインタビューした人たちの言葉として次々に繋げていくのである。
つまり、例えば「スカラ座の魅力について」語らせる場合、3人がそれぞれ語った1分の話を綴るのではなく、10人の人が語った10秒の言葉を綴り、並べていくのだ。
映像では、たくさんの人が次から次へと語っていく様子が映し出される。多くの人の話で埋め尽くすことで語られる言葉はバラエティ化するが、内容に乏しく、「その心は?」という深層の話は聞くことができない。
 
これは、どっちが良い悪いではなく単なる手法の違いなわけだが、とても興味深い。
 
なお、この映画はただいまロードショー中。興味がある方は是非ご覧を。ハリウッド映画じゃないから、公開劇場と期間をチェックしないと、あっという間に終了になっちゃうよ。