羽田からの直行便で前日夕にミュンヘンに到着。実質的な旅行初日であるこの日は午前7時30分にミュンヘンを出発してザルツに向かい、11時からのウィーン・フィルと16時からのトロヴァトーレをダブルで鑑賞して、夜に再びミュンヘンに戻る。翌日にルツェルンに移動するのには、ミュンヘンに泊まった方がはるかに便利という事前計画だ。
毎回ザルツを訪れる度に思うことだが、世界中からの観光客で溢れ返っている中、祝祭劇場に集うほんの一握りの人たちのなんとセレブなことか。タキシードやドレスで着飾り、開演前のひと時をシャンパングラスを傾けながら談笑している金持ち連中。やはりこの音楽祭は高級なのだということを実感する。彼らにとっては、ここザルツに集うこと自体がステータス。毎年必ず来ている人もかなり多いとみた。
そんな中、オレみたいな金持ちでもなんでもない単なるクラシック音楽好きという一部の人間が、まるで背伸びをするかのように社交の場の末席を汚している。
ふと考える。
クラシック音楽の祭典にふさわしいのは果たして我々なのだろうか、それとも彼らなのだろうか?
「当然オレらに決まっているだろ」などと言うつもりはない。何と言っても彼らはスポンサーなのだ。
第一級の演奏家が集う豪華な音楽祭を彼らが支えていることは、紛れもない事実なのである。
さて、この日8月15日はカトリックの国にとって聖母被昇天という祝日。旧市街のあちこちの教会でミサが催されていた。
たいていのヨーロッパ諸都市では、普段の日曜も含め、ミサ開催中はお祈りをしない観光客の冷やかし入場を規制する。ところが、ここザルツはかなり大らかで、「どうぞどうぞ」という感じだった。そもそも街を歩いている人のほぼすべてが観光客。区別制限することなど至難なのだろう。
お祈りには加わらなかったが、私はミサのための音楽演奏に耳を傾けるべく端っこの席に居座って、コンサートが始まるまでの時間潰しをさせてもらった。オルガンや合唱隊だけでなく、なんとミニオーケストラ付き。本格的な演奏に驚いた。そこらへんはさすが音楽祭の街と言えようか。
教会の尖塔が林立し、一日中カランコロンと鐘が鳴り響く古都ザルツブルク。コンサートやオペラもいいが、こうした宗教音楽の鑑賞もまた楽しい。