ついにその日が来てしまった。旅行中、その日が来てほしくないとずっと思っていた。ペーザロを離れる日だ。悲しい。悲しすぎる・・・。
なぬ? いくらなんでもオーバーだろうって?
やかましーやい。
ここは天国なのだ。天国に別れを告げなければならないのだから、悲しいに決まってるでしょが。
ホテルをチェックアウトしたら、受付の女性が「じゃあまた来年ね!」と手を振ってくれて、ちょっとだけ寂しさが紛れた。来年かあ。うーん、やっぱり前向きに検討するか。
ペーザロからザルツブルクへ移動。
電車でボローニャまで、そこから飛行機でミュンヘンへ、さらに電車でザルツへ。遅延が発生する可能性も想定し、時間的余裕を十分に取ったため、ほぼ一日がかりになってしまったが、幸い遅延などのトラブルもなく、移動そのものはとても順調だった。ただし、ミュンヘンからザルツまでの電車が満員で、途中まで約45分立ちんぼを強いられたのにはまいった。こんなことは初めてである。
ザルツブルクにはあらかじめ立てた計画のとおり午後5時45分に到着した。
中央駅すぐ近くのホテルにチェックインし、部屋に荷物を下ろすやいなや、長時間移動の疲れを癒やす間もなく旧市街に出かけた。翌日はほぼずっと音楽鑑賞になるため、観光に専念できるのはこの日しか無い。日が暮れるまでの約2時間が勝負だ。
もし今回の旅行が私一人の単独行動だったら、間違いなく観光ではなく、音楽祭会場に直行したことだろう。
だが、相棒Oくんのためを思うと、そうはいかない。彼にとってザルツブルクはおよそ四半世紀ぶり。懐かしさを十分に味わってもらいたい。親友のための清らかな自己犠牲。彼のために、私は喜んでガイドに徹する。なのにOくんは全然お礼を言ってくれないので、仕方がないから自分で自分を褒める。
「偉いなあ、オレって(笑)」
天気は曇りだったが、ミラベル庭園→メンヒスベルグ→カラヤンプラッツ→祝祭劇場→レジデンツ広場→モーツァルト広場→モーツァルトの生家(閉館間際に飛び込んで見学)、と駆け巡って、この日のジェット観光は終了。街のシンボルであるホーエンザルツブルク城塞は、明日、オペラとコンサートの合間に登ることにした。
従業員が全員中国人の日本料理レストラン(まったくもう!)「NAGANO」で夕食をとった後、ホテル・ザッハーのカフェテラスでコーヒータイム。もちろん名物のザッハートルテとともに。
ここの給仕を担当していた女性従業員が笑顔で愛嬌を振舞っていて、Oくんはとても喜んでいた。
だが、私は喜ばない。逆に警戒する。
だとするならば、欧米はまさに「見返りを求めるサービス」である。
私はこれまでにレストランやカフェで、非常に丁寧で愛想が良く、心のこもったようなサービスを受け、喜んでいたら、お会計の際に「Service is not included!」と囁かれ、チップをねだられた経験が何度もある。基本的に、そういう連中なのだ。そういう文化なのだ。だから、心の底から信用することは出来ない。
とはいえ、ペーザロに続きここザルツブルクでも、素晴らしい滞在になるような予感は十分に抱かせてくれた。