ロッシーニ アルジェのイタリア女
指揮 ホセ・ラモン・エンチナール
演出 ダヴィデ・リヴェルモア
アレックス・エスポジート(ムスタファ)、マリアンジェラ・シチーリア(エルヴィーラ)、ラファエッラ・ルピナッチ(ズルマ)、ダヴィデ・ルチアーノ(ハリー)、シー・イジェ(リンドーロ)、アンナ・ゴリャチョヴァ(イザベッラ)、マリオ・カッシ(タッデオ)
一にも二にも演出に尽きる。徹頭徹尾「ザッツ・エンタテインメント」。明るく楽しく、ユーモアがあって夢のある舞台を創り上げた演出家リヴェルモアの完全勝利。お客さんは大ウケ。天国から覗いていたロッシーニさんも、「こりゃ参ったわい!」と膝を叩いて喜んだことだろう。
時代は1960年代に設定。アメリカンポップス調のアニメーション映写をふんだんに使用して、舞台をカラフルに彩る。演出家リヴェルモアは当時の世相、日常、流行、ファッションに徹底的にこだわりを見せ、舞台から往年のソフィア・ローレンが飛び出してくるんじゃないか、そんな錯覚さえ起こさせるほどのリアリズムを採用している。
特定の時代を設定し、その時代を彷彿させる背景や衣装、メイクなどに細部にわたってこだわりながら迫る手法は、昨年に上演された「バビロニアのチーロ」とまったく同様だ。そこにひたすら踊って演技するだけの数人の黙役俳優を加えて演劇的要素を高めるやり方も、これまた同じ。リヴェルモアのオリジナリティ、得意技なのかもしれない。
ストーリー展開に緩慢な瞬間がまったくなく、出演者は舞台の上にいる間、常に演技している状態なので、これは相当にリハーサルを重ねたはずだ。更に歌手は歌わなければならないのだから、その大変さは想像に難くない。
にもかかわらず、誰一人として見た目に大変さがにじみ出ていないのは、さすが。それどころか、水を得た魚のように舞台狭しと飛び回っている様子を見ると、歌手たちが演技を心底楽しんでいることがよく分かる。特にムスタファ役のエスポジートとイザベッラ役のゴリャチョヴァは超ノリノリ!このように歌手をその気にさせてしまうのも、演出家の才能と言えるだろう。
個別の歌手の出来不出来について述べるのは、はっきり言って不要だし野暮。歌っていることを感じさせないほどに舞台のめり込ませてくれた、その役作りだけでもう十分だ。
ただし、指揮をしたエンチナールには少々注文を付けたい。他のオペラだったらまだ良かったかもしれないが、この作品、このプロダクションではミスキャスト。全然ノリについていけていない。ドンクサさ丸出し。カーテンコールで一部からブーが飛んだが、我が意を得たりであった。
昨年、今年と二年連続で演出を行い、大成功を収めたリヴェルモア。いっそのことROFの主席演出家待遇にしてもいいと思うのだが、残念ながら来年の予定はなし。是非、再来年以降の再登場を期待! 楽しみにしてまっせ!