クラシック、オペラの粋を極める!

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夜のガスパール

 先日のラ・フォル・ジュルネ、ベレゾフスキーの演奏で聞いたラヴェルピアノ曲「夜のガスパール」。私はこの曲が大好きだ。好きなピアノ曲ダントツナンバーワン。

 クラシック音楽愛好歴が長いと、昔は大好きだったのにいつの間にか愛着が失せてしまった曲がある。歳とともに嗜好が変化してしまうのであろうか。
 だが、この「夜のガスパール」に関しては、決して熱が冷めることはない。ネバー。いつ聞いても何度聞いても、血が騒ぎ、鼓動が高まり、鳥肌が立つ。この曲を軽く聴き流すことなど絶対不可能。瞬く間に曲の中に吸い込まれてしまう。魔術をかけられたかのように精神が揺さぶられ、高揚する。そんな曲、他にあるか? ないっ。

 ラヴェルは天才だ。
 なんでも、当時、これ以上演奏するのが難しい曲はないと世間一般に言われている作品があったそうで、それを聞いたラヴェルが「よっしゃ、それならいっちょオレ様がもっと難しい曲を書いたろ」といって作曲したのだとか。
 実際、この曲を聞くと、つくづく「こりゃあ、難しそうだなあー」と思う。特に第三曲目の「スカルボ」。2本の手、10本の指から繰り広げられる音楽とは、とても信じられない。どうしてこんなにも人間離れした超絶技巧曲を作れてしまうのか?そもそもラヴェルはこの曲を弾けたのか?弾けなくてこんな凄い曲を作れてしまうのか?
「さては悪魔の力を借りたな!?」
思わずそう思ってしまうくらい、ラヴェルは天才だ。

 もし機会があったら、是非この曲の楽譜を見てほしい。ピアノを演奏する人じゃないと見る機会なんてないかもしれないが、是非楽器店に行って楽譜をパラパラとめくってほしい。びっくりするから。楽譜が読めない人でも、その譜面ヅラを見ただけで「すっっげー!」と感嘆すること間違いなし。ホントだってば。譜面ヅラそのものがアート。額に入れて飾りたいくらいだ。

 録音では、名盤の誉れ高いのがフランソワ、アルゲリッチ、ポゴレリッチの三人。それぞれが感性豊かで、どれもみんな良いが、私のお気に入りはポゴレリッチ。生でも聞いたけど、一生忘れられない壮絶な演奏だ。YOU TUBEで映像を見ることが出来るから、是非探してみて。

 最後に、個人的なエピソードを。
 その昔、大学生の頃、とある縁でピアノ科の女子音大生と知り合った。ほんの少し下心があったのだが、残念ながら良い関係には発展しなかった・・・ま、それはいいとして!
 シロウトで楽器を下手クソに演奏をしていた人間にとって、音大生というのは特別な才能を有する憧れの対象だ。彼ら彼女らはやがてプロの道を進んでいく。(実際にプロ奏者になれるのは、数いる音大生の中でもほんの一握りだという現実は、もっと後になって知った。)

 ということで、私は音大のお姉ちゃんにせがんだ。
「あのさあ、お願いがあるんだけど、「夜のガスパール」弾いて聞かせてくれないかなー。オレ、好きなんだよね、この曲。」

 彼女の顔が青ざめ、引きつった(笑)。
「あのねー、音大に行っているからって何でも弾けると思ったら大間違いよ。あの曲は特別。プロだってまともに弾ける人はそういないんだから!」

 「なーんだ、そうかい」と露骨にがっかりしたフリをしたら、さすがに彼女のピアニストとしてのプライドに抵触してしまったようだ。

「ああ・・・でもねえ、そうねぇ・・えーと、1年くらい時間をくれたら弾けるかも。レッスンの合間に取り組んでみるから、時間ちょうだい。とりあえず1年後、ね!」

 当たり前というか、一年後の約束は霞のごとく消滅した。
 あれから20年以上経っているが、果たして彼女は「夜のガスパール」を弾けるようになったのだろうか??(笑)

 今、どこで何しているのかなー?プロとして活動しているという噂は全く聞こえないが(笑)