クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2012/4/29 マクロプロス事件

イメージ 1
 
2012年4月29日  フランクフルトオペラ
ヤナーチェク  マクロプロス事件
指揮  フリーデマン・レイヤー
演出  リチャード・ジョーンズ
スーザン・ブロック(エミリア・マルティ)、パウル・グローヴス(アルベルト・グレゴル)、ヨハネス・マルティン・クレンツレ(ヤロスラフ・プルス)、アレシュ・ブリスセイン(ヤネク)、グラハム・クラーク(ハウク)、ディートリッヒ・フォレ(コレナティ)、クリスティアーネ・カルク(クリスタ)   他
 
 
 決して上演の頻度が高いとは言えないこの作品を、昨年8月のザルツブルクに続き、またもや鑑賞できたのは喜ばしい。特に、今回は、私の大好きな演出家の一人であるR・ジョーンズによるニュー・プロダクションだったので、期待が大きく、楽しみだった。
 
 近年、「そこまでするか」というような、変で、不思議で、意味不明の演出が幅を利かせる中、R・ジョーンズは、もちろんオーソドックスではないものの決して過激ではなく、観客の脳に適度の刺激を与えてくれる。ピリリと辛く、ニヤリとさせる皮肉があり、思わず「なるほどね~」と唸る演出が多いのだ。
 
 まず、冒頭から見せ所がある。開演前から既に舞台が開いていて、序曲が始まる前にパントマイムがある。
 場面はコレナティ弁護士事務所の中ではなく、どこかの田舎の庭。舞台に本物のニワトリが何匹も放たれていて、「なんだこれは??」といきなり観客を戸惑わせる。
 そこに娘さんと男性二人が登場。娘の名前はエリナ。つまり主人公です。男性は、一人は神父の格好、もう一人は、定かではないが、私は娘さんのお父さんとみた。この男性二人が、お嬢さんに液体の入ったコップを手渡す。「これを飲みなさい。」言われるがままに口に含んだものの、ただならぬ気配を感じて飲み干すのをためらっていると、二人から無理やりほっぺを押されて、喉に流し込まれる。意識を失うエレナ。300年生きられる秘薬の人体実験がこうして行われた。この不思議な物語の前提をまず提示したというわけだ。
 
 このお父さん(と思われる)は、その後も時々舞台にふらっと登場する。300年生き長らえているエミリア・マルティの様子をチェックするかのように。
 ラストのクライマックスでは、脚本どおりだと、秘薬の処方箋の紙をクリスタが燃やしたところでエミリア・マルティの長い生涯が閉じられるのだが、今回の演出では、エミリア・マルティが自ら処方箋を暖炉に投げ捨てようとしてはためらうという動作を繰り返す所で幕が降りる。いかにもリチャード・ジョーンズらしい演出上のアクセントが全編を通じて随所に効いていた。
 
 出演した歌手について。
 このオペラでは、エミリア・マルティ役こそが全てと言ってよく、あとはどれも脇役。その主役を歌ったスーザン・ブロックは力強い声で、最初から最後まで音楽を制圧し続けた。完全なる貫禄勝ちである。ただ、舞台上の容姿と演技もあまりにも貫禄がありすぎて、ちょっと怖い。日本のバラエティ番組で強烈な存在感で毒舌を放っているマツコを彷彿させて、苦笑。
 
イメージ 2
 
 
 
 個人的に嬉しかったのは、90年代から2000年代初めにかけて、ミーメやローゲなどのワーグナーのキャラクター・テノールとして一世風靡していたグラハム・クラークが、相変わらずアクの強い歌いっぷりとギラギラした演技で目立っていたこと。本当に素晴らしかった。
 
 なお、クリスタ役のクリスティアーネ・カルク(上の写真で右側の女性)は、フランクフルト歌劇場の専属歌手であるが、この冬、ヤンソンス指揮バイエルン放響の来日公演キャスト(ベートーヴェンの第9のソリスト)に入っていることを情報提供しておく。
 
 全三幕の物語だが、休憩はなく全て通しで上演され、カーテンコールを含めても2時間かからなかったが、舞台に釘付けで実に濃密な時間だった。