クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

アルゲリッチのチャイコP協

 アルゲリッチの凄さを体感したかったら・・別に私が述べるまでもなくみんな知っているかもしれないが - チャイコフスキーのピアノ協奏曲を聴くべきである。3つくらい録音盤を出しているが、中でもコンドラシン指揮バイエルン放響とのライブがすさまじい。
 
 世に出回っている膨大なクラシックの録音の中には、奇跡の演奏と言っていい名盤が少なからず存在するが、これほど神憑りで壮絶で人間業とは思えない演奏はそうはないはずだ。(他に何がある??)
 これは紛れもなくクラシック演奏史上の事件であり、レジェンドだと思う。本当にまあ、よくぞこのライブが録音されたものだと、その事自体が奇跡だと思う。
 
 え? いくらなんでもオーバーではないかって?? じゃ、まずは聴いてみてくれよ。百聞は一見に、いや一聴にしかず、だ。
 
 とにかくスリリング!!全ての楽章がアンビリーバボーだが、特に最終楽章のクライマックス、両手ユニゾンで鍵盤を駆け巡るテンポの異常な速さ、その衝撃といったら、まさにウサイン・ボルトの閃光、前人未到の9秒58のごとし。
 
 
 私がこの録音に出会ったのは高校生の時で、当時はCDではなくレコードだった。演奏を聴き終え、しばらく茫然自失で身動きできなかったのを、昨日のことのように思い出す。私はその後即座に同じレコードをもう一枚買った。一枚は針を落とすことなく完全永久保存版にしようと考えたからだ。それくらいこの演奏はすごいと思ったのである。
 
 さて、そんな中、この奇跡の演奏が日本で生で聴ける空前のチャンスが訪れた。1984年11月、新日本フィル定期演奏会の客演ソリストとして女史は登場した。チャイコのP協がメインのプログラム(一曲目はニールセンの交響曲第3番だった)、指揮はもちろん小澤征爾。これぞクラシックの神様の贈り物、一期一会とはまさにこのことを言うのだろう。
 
 完売は必至。このため私はわざわざ新日フィルの定期会員になった。当時学生で、連続券を購入するのは資金的に苦しかったが、それによって容易にチケットを確保できると思えば、ためらいはなかった。どうしても、何がなんでも、誰がなんと言おうと絶対に聞きたかったのだ。
 
 ところが。
 いやそれが・・その・・・。
 ちょっと気合が入りすぎた。期待をかけすぎた。
 だいたい、「世紀の演奏録音とおんなじ演奏をしてみろ」だなんて到底無理な注文だ。
 
 この公演、アルゲリッチは確かに炸裂した。奔放で異次元のテンポは録音のままだった。だが、どこかはぐらかされている感じがした。燃焼はしていたが、温度はそれほど高くなかった。期待がデカすぎて「あれ?こんなんだったっけ??」と感じてしまうことほど悲しいものはない。高ぶる期待を冷静にコントロールできない若気の至りであった。
 
 そういえば、指揮をした小澤征爾が、姐御のハイテンポの演奏に付いて行こうとして、鬼の形相でソリストを睨み、格闘してたっけ。後にも先にも、私はあんなに必死な小澤さんの姿を見たことがありません。