2010年10月7日 ハノーヴァー歌劇場
指揮 ヴォルフガング・ボージッチ
演出 バリー・コスキー
トビアス・シャベル(ヴォータン)、フランク・シュナイダース(アルベリヒ)、エリン・ケイブス(ローゲ)、カトゥーナ・ミカベリーゼ(フリッカ)、アランツァ・アルメンティア(フライア)、ヨルン・アイヒラー(ミーメ)、アルベルト・ペゼンドルファー(ファーゾルト)、ユン・クウォン(ファフナー) 他
いくつかの候補地(候補演目)からハノーヴァーのラインゴールドを選んだのは、劇場HPに掲載されていた驚きびっくりの公演写真が目に止まったからだ。一見して、とてもワーグナーの神話物語とは思えない。というより、そもそもどう見てもオペラに見えない。‘ラスベガスのレビューショー’そのものだった。
普通なら、そういうぶっ飛び読み替え演出は敬遠したいところだ。
だが、今年の夏、聖地バイロイトでこれ以上無い本格的な指環を体験した。ならば、次は指向を変えてもいい。思い切り方向転換してみてもいい。ぶっ飛び読み替え演出、いいだろう、望むところだ、面白れえじゃねえか、かかってこいカモン。時差ぼけのきつい旅行の初日、少々刺激があるくらいが襲ってくる睡魔との戦いにはちょうどいい。
ハノーヴァー歌劇場は、外観は本当に堂々と立派で、さすがオペラハウスという感じだが、内部は今風に改装されていて派手さはなく、普通の市民劇場である。客層もほとんど地元の方々と思われる。出演者も客演ではなく、劇場の専属歌手たちだ。しかしながら、ドイツ国内だけでなく海外の出身者も多くて(日本や韓国も含む)、ワールドワイドなオーディションで選ばれた、無名だが優秀な人材ばかりだ。
ということで、ラインの黄金。
さあ来い、いったいどんなぶっ飛びワーグナーが出てくるんだ??怖いもの見たさの期待が膨らむ。
幕が開いた。「イッツ・ショータイム!!」
スパンコール付きの衣装に羽の扇を振りかざしながら、ラインの乙女たちのラインダンス(シャレかいな)が始まった。その光景はおよそワーグナーの音楽とはかけ離れ、目を覆わんばかりで開いた口が塞がらない。「いったいなんだこれは!ふざけるのもいいかげんにしろ!」と、私はまんまと演出家の思うつぼ、挑発に引っかかる。おっと、引っかかってやったというのが正しいのだが。
第二場は海辺で、ヴォータンはいきなり海水パンツ姿で現れる。なんだこれは!ふざけるのもいいかげんにしろ!(怒)
とまあ、ここまではよかった。
だが、せっかくこっちが挑発に乗って怒ってあげているのに、その後の展開がまるで面白くなく、いただけない。物語が進むに連れて、演出がどんどん普通になっていくのである。登場人物の格好だけは普段着でいかにも現代演出っぽいが、作品の奥底に切り込もうとする鋭さがまるでない。せっかくのレビューショーで観客をいきなりぽっかーんとさせたのに、その後は全くの肩透かし。アルベリヒ率いる地下のニーベルング族の住処は裁縫工場。隠れ兜の帽子をミシンで縫っているが、だからといって別に面白くもない。つまらんなあ、どうせやるんだったらもっと徹底的にやれよ。壊すのなら徹底的にぶっ壊せよ。それが出来ないんだったら、姑息なことをしないで真正面から勝負せいよ。中途半端が一番いけません。
このハノーヴァー・リングは、現在4部作を新規製作中で、すでにワルキューレまで完成上演済み。これからジークフリート、神々の黄昏のプレミエが予定されている。だけど、特にこの先を観たいとも思わない、べつにいいやって感じだ。残念だけどね。
音楽的には文句はない。専属歌手のレベルは高い。おそらく日本の二期会のレベルを軽く凌駕するであろう。こういう所はさすがドイツ、である。
話は変わるが、このハノーヴァー歌劇場の近辺にはレストランが少ない(カフェならあるけど)のが玉にキズ。この日の終演後、私はやむを得ず昼食をとったところと同じレストランに入った。もっと言うと、はっきり覚えているが、前回のハノーヴァー歌劇場でオペラを見終わった後に入ったレストランだった。3回連続。まあビールが美味しかったからいいんだけどサ。(結局そこなんだよなー(笑))