実は、相棒Oくんとはここでお別れ。彼はやむを得ない事情により帰国。最後の黄昏を観ずに日本に戻らなければならないのはさぞかし無念だったと思うが、しようがない。とりあえずお疲れ様でした。
Oくんの後を引き継ぐ形で、先輩Kさんとザルツで合流し、翌日一緒にバイロイトに戻ることになっている。(4演目セットの鑑賞の権利のうち3つをOくんが手にし、残りの1つをKさんに差し上げたというわけ。)
道中、天気は雨。バイロイトから電車で南下している間、ずっと降りっぱなしだった。
私は車内で一人ぼーっと考えていた。
ザルツではシュトラウスのエレクトラを見ることになっている。夜の8時30分開演。それまでの間は、9年ぶりという久々のザルツをのんびり歩いて観光を満喫しようと思っていた。この日、午後3時半からドン・ジョヴァンニが上演されることを知っていたが、せっかくの美しい街を味わうことなくオペラをはしごするのは、少々ばかげている。感動も薄れるかもしれないし、ダブルヘッダーはかえって疲れるかもしれない。賢明の判断なはず・・・だった。
ところが、この雨だ。これではせっかくの観光が台無しになりかねない。傘さしての街歩きは勘弁してほしい。
すると、途端に頭の中から心の中から、むずむずと「オペラ見たい病」の菌が湧き、増殖して、抑えられなくなってきた。ヤバい。また発症してしまったか。
「おお、これなら観光できるじゃんか??」
なーんていう思いとは裏腹に、私の足はすたすたと音楽祭のチケットビューローに向かっていく。
「おいおいどこ行くんだよ、観光だろ?」
なーんていくら言い聞かせても、私の足は全く言うことを聞かない。
嗚呼、チケットが完売であればどれだけよかったことか。もしくは高い席しか残っていないのならこの衝動も急速に萎んだことだろう。だが、カテゴリー4いわゆるC席150ユーロの席があと1枚だけ残っていると言われた瞬間、私はもう財布からクレジットカードを取り出していた。はい、ダブルヘッダー決定~。許しておくんなせい、おっかさん。あたしゃ病気なのだ。
とにかく、後で振り返って、街の風景が思い出せないという事態だけは避けたかったので、ホテルにほど近いカプツィーナベルクという丘に登った。旧市街とホーエンザルツブルク城塞を望む絶景のパノラマスポットは市内にいくつかあるが、ここもそのうちの1つ。登りの勾配はきつかったが、上の写真のとおり展望台からの美しい眺めを目に焼き付けた。
それにしても、久々のザルツブルクだが、観光客の多いこと!町中、人で溢れかえっている。これらの人々は、ただ観光するためにやってきている人がほとんど。せっかくの音楽祭のシーズンなのにハイレベルなクラシック音楽を体験せずに歩き回っている多くの観光客。
一方で、音楽に吸い寄せられ、音楽だけを求めて彷徨っている一部の病人。どっちもどっちだが、その両者に支えられてこの町は繁栄を築いている。