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2010/3/28 ミュンヘンフィル1

ブルックナー  交響曲第8番(ハース版)
 
 
 これ以上ない濃密な時間だった。
 
「誇張がかった豪壮なブルックナーになるのでは?」と事前に予想したが、全く違った。ティーレマンは一つ一つの音を慈しみ、はぐくみ、大切に培養させて、オケから純度の高い精製物を引き出した。過度に飾らず、耽美に走らず、冗長に陥らず、ひたすらまっすぐにブルックナー本来の姿を追い求めた。
 
 ティーレマンの真摯な追求に、ミュンヘンフィルが完璧に応えた。
 オーケストラは指揮者が追い求めている物が何なのかを分かっている。このため指揮者は大きな身振りなど必要がない。熟成された関係そのもの。まさに理想型。こんなに素晴らしい間柄なのに、どうしてティーレマンは去ってしまうのだろう?分からない。
 
 この日、横浜みなとみらいホールに集った選ばれし聴衆たちは、神の降臨とまでは言わないが、少なくとも天から降りてきたブルックナーの姿が見えたはずだ。そして、その素晴らしい聴衆は、最後の音が鳴り響いても、ブルックナーが再び天に昇って戻りきるまでの間、司祭ティーレマンに従って静かな沈黙を守り通し、奇跡の瞬間を共有した。
 
 このような希有な体験は、G・ヴァント以来だった。
 
 これ以上ない濃密な時間だった。