2022年2月5日 NHK交響楽団 東京芸術劇場
指揮 下野竜也
小林愛実(ピアノ)
シューマン 序曲、スケルツォとフィナーレより「序曲」、ピアノ協奏曲、交響曲第2番
オミクロン絶賛蔓延中、なおかつ芸術劇場定期。にも関わらず、会場は大入り。
小林愛実さんの代役ソロ起用が理由であることは、ほぼ確実。旬のピアニスト。彼女の出演だけで、おそらくチケット売上は3割増になったのではないか。
個人的には当初予定のピアニスト、I・レヴィットを聴けなかった失望感が大きい。
レヴィットは、ピアノ界に久々に出現した真の天才だ。本当なら、彼がキャンセルになったことで、逆にチケット収入が落ち込んだっていいくらいの、とてつもない才能なんだ。この日集ったお客さんは、きっと知らないと思うけど。
まあ仕方がない。とにかくN響は彼女に救われた。良かったね。
余談だが、前回私がシューマンのP協を聴いたのは昨年6月の読響で、ソリストは反田恭平くんだった・・。
どうでもいいか(笑)。
さて、そんなシンデレラ小林さんが弾いたシューマンのP協。
「たぶんこんな感じで弾くんだろうな」「きっとこんな印象になるんだろうな」と聴く前から予想し、そして案の定、そういう印象を抱いた結果となった。
一言で言うと、「女性目線の演奏」。
このP協、男性が弾いた演奏と女性が弾いた演奏とで明確に違いが出る、不思議な作品だ。
小林さんもそうなのだが、全般的に女性の演奏の方が一音に込める思いがひしひしと伝わってくる。タッチの中に真心が含まれている。「愛」と言ってもいい。
これに対し、男性の演奏では、もう少し作品全体の構成分析に力が注がれる感じがする。
あくまでもなんとなくの個人的な印象だが。
で、その原因は掴めているというか、私なりに理解し、腑に落ちている。
クララの存在である。
おそらく女性ピアニストは、この作品がクララに捧げられ、彼女の演奏を前提にした作品であること、そうした音楽になっていることを、瞬時かつ本能的に捉えるのだと思う。で、ロベルトのクララに対する思いまでしっかりと受け止め、それを演奏に落とし込めようとするのだ。
どうですか、違います? 女性ピアニストの皆さん。
小林さんの演奏は、多くの聴衆の皆さんのハートをガッチリ掴んだ模様。会場は大盛り上がりだった。
アンコールはショパンのワルツ。お客さんお待ちかね。
「あ! 上手ぇ!」。
思わず私も唸ってしまいました。さすがだね。
下野さんのタクトによるオーケストラドライブは、いつもながら盤石。ディティールの動きや表現に敏感で、浮き彫りの仕方が非常に明快。彼もまた代役出演だったが、やっつけ仕事感は微塵もない。改めてスコアの読解能力が高い指揮者だと実感。