2022年1月15日 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 東京オペラシティコンサートホール
指揮 高関健
戸澤采紀(ヴァイオリン)
ブリテン ピーター・グライムズより 4つの海の間奏曲
ラロ スペイン交響曲
メンデルスゾーン 交響曲第3番 スコットランド
この日、本当はアイスホッケー(栃木日光アイスバックスのリーグ戦)を観戦するために、日光に遠征するつもりだった。ところが、突如試合は中止。てっきりコロナ感染拡大による影響かと思ったら、なんと、選手に感染者が出てしまったらしい。
だとしたら、まあ仕方がないか・・。
欧州サッカーでも選手が感染する事態があちこちで発生しているが、あっちでは当該選手は離脱しても、基本試合は行われている。(もちろん、よほどの場合は別)
翻って、万全に万全を期して試合の中止を決めてしまう日本。
どっちがいいのかと言えば、国民気質からすると「そりゃ日本」ということなのかもしれないが・・・やっぱり国民気質の違いだな。
ま、とにかくそういうことで、元々行こうかどうしようか迷っていた本公演に急遽行くことにした。チケットは当日券。
この公演は、シティ・フィルのコンサートマスター戸澤さんと、その娘さんである采紀さんの親子共演が話題だ。
戸澤采紀さんについては、コンチェルトのソリストとして既に幾つかの日本のオケ公演に出演していたので、名前だけは知っていたのだが、そうかー、シティ・フィルの戸澤さんのお嬢さんだったとは・・。
こういう時、お父さん、それから娘さん、それぞれどういう心境なんだろうねぇ?
パパとしては、そりゃ嬉しいだろうねー。心の中ではニヤニヤが止まらないだろう。一方で、お嬢さんがしっかり演奏できるか心配、ハラハラドキドキだったりして。
娘さんはどうかといえば、きっと嬉しさと、照れくささと、「私は『戸澤哲夫の娘』ではなく、『戸澤采紀』よ!!」の自立心が微妙に交錯、みたいな感じか?
もちろんお二人とも、ステージ上ではそうした内心を包み隠し、平静を装って、普段のとおりのコンチェルトが淡々と演奏された。そこらへんはプロだし、当たり前だろう。むしろ、通例の儀式、ソリストとコンマスの握手ならぬ腕タッチの場面で、会場の方が「その瞬間を待ってました!」とばかり、沸いてましたね。
肝心の演奏についてだが、親の七光りではない、堂々たる腕前を披露。ラロのエキゾチックさを醸し出そうと、風を切るような颯爽とした表現の工夫も垣間見えて、面白い。ほう、結構やるじゃん。
ただし、貫禄や風格も含め、まだまだ完成品には至らない。もう一皮剥けてほしい。
逆に言えば、もう一皮剥ける余地がある。それはとりもなおさず将来性があるということであり、伸びしろがあるということ。是非良い方に取ってほしい。
プログラム全体の感想と高関さんのアプローチについて。
毎度のことながら、高関さんのプログラムの選曲には、こだわりや一貫性が透けて見える。配布されたプログラム・ノートにも記載されているとおり、この3曲にはイングランド、スペイン、スコットランドといったローカルの情景、憧憬が映し出されているのだ。
だったら、もうそのまんまイメージの描写を演奏に落とし込めばいいのに、決してそうはしない。アプローチの源は、結局ブリテン、ラロ、メンデルスゾーンのスコアである。
特に、メインのメンデルスゾーンなんか、ドイツ・ロマン主義のもろ徹底ぶりで、スコットランドの欠片もなく、思わず笑える。
いや、それはそれで良い意味で潔い。
考えてみれば、メンデルスゾーンだって、スコットランドを単なる題材にしただけの、自らの作風の確立を目指していたかもしれないのだ。
そういう意味では、演奏からはちゃんとブリテン、ラロ、メンデルスゾーンの本質が聴こえてきた。ならば、それでいいじゃないですか。さすがじゃないですか。