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2002/5/1 マドリード2  テロ?

事件が起きた。
レアル博物館見学を終え、午後8時45分キックオフの試合観戦に備えていったんホテルに戻るため、最寄りの地下鉄駅構内に降りようとした、ちょうどその時だった。時間は、午後5時頃だ。

ドーーーーーーーーーン

巨大な破裂音が付近一帯に鳴り響き、一瞬空気が振動した。
どこかで何かが起こった。
ただ、音が聞こえただけだったので、状況は詳しくはよく分からない。
私はキョロキョロと辺りを見渡したが、その場からは何も見えなかった。

既にスタジアム付近には、試合を待ちきれないファンがぼちぼちと集まりかけていた。
彼らが気勢を上げるために放った花火、爆竹なのだろうか?
いや。そんなもんじゃなかった。もっと鈍くてデカイ音だった。

交通事故か? ガス爆発?

まさか・・・まさか・・・テロ?

多くの日本人にとって、テロは身近なものでなかった。私自身も、遠い遠い世界の出来事だと思っていた。

2001年9月までは・・・。

それ以前までだったら、この巨大な破裂音を耳にしても、別に「ん? 何かあったか?」程度にしか思わなかっただろう。
しかし、前年の9月11日の大惨事を目の当たりにしてしまった以上、ここで耳にした巨大な音は、何だか不気味で不穏な胸騒ぎを引き起こす。

何が起こったのか全然分からなかったが、私はとにかく「立ち去ろう」と思った。
付近で何かが起こったとしても、関わってはいけない。巻き込まれてはいけない。
私はそそくさと駅構内に入り、地下鉄に乗って、ホテルに戻った。

部屋で私はテレビを付けた。
まさかとは思ったが、そこで衝撃のニュース映像を目にする・・・。

テレビの画面には、ブレイキング・ニュースとして、マドリード市内の生中継映像が流れていた。
路上で複数の車が激しく燃えていて、黒煙が上がっている。消防車が現場を取り囲んで、消火活動にあたっている。
スペイン語放送なので、リポーターの説明は一切理解することが出来ない。
しかし、画面に映し出されたテロップに「ETA」の文字を見つけた瞬間、私はすべてを把握した。

「テロだ・・・やはり」

ETA。バスク解放戦線。
この地方の分離独立を目指す民族集団。武装闘争を繰り広げており、一般的にテロ組織とみなされている。私は大学時代に「スペイン近現代政治史」を受講していたので、この名が頭に刻まれていた。

以下の写真は、翌日の朝にスタンドで購入し、日本に持ち帰った現地のスポーツ新聞の記事である。現場は、「サンチャゴ・ベルナベウ」スタジアムからわずか120メートルの場所だったとのこと。
つまり、私はこの時、テロ現場から半径200メートル内にいたことになる。危険と隣り合わせだったということだ。恐ろしい。

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怪我人や死者が出たのだろうか・・・。
いや、それよりも試合はどうなるのか???
私にとってはそっちの方が関心事だ。

スタジアムの付近で発生したテロ事件なら、組織の狙いは試合の妨害だと見るのが妥当であろう。
試合やるのか?  それとも中止になってしまうのか?
テレビを見ていても、言葉が理解できないので、全然分からない。


午後7時。
事件の発生から約2時間。そしてキックオフまで、あと1時間45分。
依然として試合をやるのかやらないのかの情報が得られず、どうしていいか分からないままホテルの部屋に籠もっていた私は、ここで決断を下した。

「スタジアムに行こう。」

もしかしたら危険な決断だったかもしれない。
だが、何も分からず、情報もないまま、ただホテルの中に籠もっていることの方が苦痛だったし、一生に一回あるかないかというビッグマッチを見るチャンスを、そう簡単に手放したくはなかった。

だから、とにかく行ってみよう。
ただし、慎重に。気をつけて。