クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

初ヨーロッパへの道2

悩ましい問題、それは、旅行の時期と飛行機代のことだった。
海外旅行に行くとしたら、そのために取れるまとまった休みは、会社で定められた夏季休暇期間中しかない。
いわゆるお盆を含んだ約1週間(土曜日から次の次の日曜日までの9日間)で、そこは人々が一斉に出かける時期であり、飛行機代が最も高騰する時期だった。日欧間を往復する一流キャリアの飛行機代は、ちょっと二の足を踏むくらいに高く、それは新米サラリーマンの薄給にずしりと重くのしかかるものだった。

「うーーん・・・」
腕を組んで悩んでしまった若者に、旅行会社の担当者が救いの提案をした。
「実は、安く行ける飛行機があるのですが・・・いかがでしょう?」

こうして紹介してくれたのが、LOTポーランド航空である。
この航空会社は、当時、日本との定期便就航を行っていなかった。
しかし、大きな需要が見込まれる夏期シーズンに、特別に臨時便を飛ばすのだという。担当者は、これを「出稼ぎ便」と呼んでいた。価格が非常にリーズナブルで、安さを求めるのなら絶対にお薦めである、と。

問題が一つあった。
出稼ぎ便のフライトスケジュールが、私の夏休み期間内に収まらなかったのだ。
会社の夏季休暇は、8月13日(土)から8月21日(日)まで。
これに対し、ポーランド航空臨時便は、出発が13日(土)なのは良かったが、帰国便の日本到着が23日(火)と、はみ出た。

当時、私の勤務先は、休まず、汗水かいて、朝から晩まで働く人間が褒められるような会社だった。私の会社だけでなく、日本社会全体がそういうのを是とする時代だったような気がする。
だから、若造の自分が「すみません、夏休み、もう2日いただきます」などとは、とても言える雰囲気ではなかった。
そんなことを申し出たら、「いい気なもんだよな。大した仕事もしてないくせに、休みだけはいっちょ前か?」みたいな嫌味を言われるのがオチだろう。
嫌味だけならいい。冗談ではなく、「旅行の日程を再考しろ」みたいなことをマジで言いかねないクソ鬼上司だった。

(ある時、その上司から「事故や災害などで通勤手段が途絶した時、どうしたらいいと思う?」と聞かれたことがあった。答えに窮して「どうしたらいいんですか?」と聞いたら、「這ってでも来るんだよ」と真顔で言われた。信じられる?(笑) とにかくそういう人間だったんだ。)

悩んだ挙げ句、私は意を決した。
事前許可を得ず、とにかく行ってしまおう。行った先でトラブルが発生し、帰国スケジュールが延びてしまったことにして、旅先から国際電話をかけ、「そういうことなので、ごめんなさい」と詫びよう。そのように考えた。帰国後、ブツブツ言われるかもしれないが、その時はその時だ。

問題がクリアになったことで、旅行の計画の歯車が、実現に向けまた一つ動いた。

ちなみに、行程の中に、しっかりルツェルンザルツブルクといった音楽祭の開催都市を組み入れたが、公演チケットは何の手配も行わなかった。
それどころか、どんな公演が行われているのかさえ確認しなかった。

今と違い、この頃は「観光優先、音楽鑑賞二の次」だったのである。
それに、そもそも情報を検索したり、チケットを予約したりするのに役立つ「ネット」というツールは、世の中に存在していない時代であった。仮に、どんな公演が行われているのかが調べられたとしても、その次は、チケットをどうやって取るのかという壁に直面する。
面倒くさかった。

ただ、行ってみて、そこで何か聴けるチャンスがあったら、その時はぜひ鑑賞しよう、とは思った。
「何とかなるだろ。」
そんな楽観的な希望もあったし、それだけで十分だった。