クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2020/2/10 魔の試練 その2

続き。

足止めを食らったスイス・バーゼル駅で、必死に考えを巡らした結果、まず決めたこと。
それは、ドレスデン行きを取り止めることだった。

帰国のフライトは、ドレスデンからフランクフルト経由の羽田行きとなっている。
なので、本来なら、オペラが観られる観られないに関係なく、とにかくドレスデンに行き、そこから帰国をスタートさせなければならない。
だが、そうではなく、ドレスデンに行かずにフランクフルトを目指した方がいい。そう思った。

「予約していた二区間のうち、ドレスデンからフランクフルトの一区間フライトをぶっ飛ばす。」
バーゼルでの最初の決断。
ドレスデンまでの道のりは遠い。仮に嵐が収まって電車が動き、ドレスデンに辿り着けたとしても、到着は夜遅くなるだろう。もしかしたら深夜になるかもしれない。
そうやってなんとかドレスデンに行ったとしても、本日のフライトが大幅に乱れたことを受け、運行への影響が翌日にまで及ぶ可能性があるんじゃないか? その時、ドレスデンからのフランクフルト経由で、羽田行きに確実に乗り継げるという保証は、いったいどこにある??

そこらへん、もうちょっと詳細に説明しようか。
飛行機の運行というのは、必ず「行って、帰ってくる」という往復になっているのをご存知か。
私が「ドレスデンからフランクフルトまで」という飛行機に乗る時、その前に必ず「フランクフルトからドレスデンまで」というフライトが存在している。ドレスデンから乗るためには、まず飛行機がフランクフルトから来ていなければならない。自分が乗る片道だけの問題だけではないのだ。
だから、フランクフルトから飛行機が飛んで来なければ、ドレスデン出発便はキャンセルになる。フランクフルトからの飛行機の到着が遅れれば、ドレスデン出発便も遅れる。
今回、嵐によりこれだけフライトスケジュールが乱れれば、たとえ翌日であってもその影響を受ける可能性がある。

帰国のためドレスデン出発便に乗るにあたり、その前にフランクフルトからの飛行機が本当に定時運行でやって来るのか?

 

確実に乗り継げるという保証はないと考えたのは、つまり、そういうこと。これ、真っ当な判断なのだ。

そうは言っても、私の航空券は「変更不可」という条件付き。勝手に「一区間をぶっ飛ばす」のは、相応のリスクを伴う。
調整が必要だ。今は非常事態。ルフトハンザ航空もきっと理解し、柔軟に応じてくれるはず。きっと・・・。

次。
それでは、どうやってフランクフルトに移動するか・・。

チューリッヒ空港にとんぼ返りし、フランクフルト行きの夕方以降のフライトについて、再アレンジメントを試みるか?(私はキャンセルとなったデュッセルドルフ行きの仮ボーディングパスをまだ手に持っている)

それとも、同じくチューリッヒ空港のルフトハンザ・デスクで、明日の帰国便を「ドレスデン→フランクフルト→羽田」から「チューリッヒ→フランクフルト→羽田」に変更してもらい、本日はチューリッヒに泊まるか?

あるいは、ここバーゼルで、状況の改善を期待しながら、とにかくひたすらじっと待って、鉄道移動にこだわるか?

暴風雨が一日中ずっと続くとは思えない。日本にやってくる台風だって、数時間経てば過ぎ去るパターンが多いだろう。もし過ぎ去るのであれば、せっかくバーゼルまで来た以上、わざわざチューリッヒに戻る必要はないし、戻りたくもない。

どうする??
悩む。悩んだ。
悩んだ挙げ句の結論は、「とりあえずしばらく様子を見よう」だった。
約2時間、バーゼル駅構内の待合室でじっと待機。
正午になった。状況は一向に変わる気配がない・・。

「鉄道運行の再開見込み」という情報が一切なく、どうなるのか分からない闇の世界の不安を抱えながら、ただひたすら待つというのは、なんと苦しく辛いことか・・。拷問のような2時間だった。

悪魔の試練に耐えきれなくなった私。その私の脳裏に、ついにもう一つの選択肢が浮かんだ。

「長距離バス」

バーゼルからフランクフルトまでの長距離バスがそもそも存在するのか、そんなことは全く知る由もない。
だが、幸いにも私は文明の利器を片手に持っている。

検索。そしてヒット!
12時45分バーゼル発。わお!今から30分後ではないか! で、予約できる座席はまだ残っている。

これだ! これにしよう! これしか無い!
雷雲から光明が差した瞬間だった。

チケットは、やはりオンラインで買えた。35ユーロ(約4千円)。これまたすぐにメールでQRコード付電子チケットが端末に送られてきた。
(もう一度言おう。「なんて便利な世の中なんだ!」)

これで、せっかく購入したドレスデンまでの2万円の鉄道チケット代の大半をドブに捨てることになった。ムカつく。ムカつくが、背に腹は代えられない。これまた、呑気に払い戻し手続きをやっている暇はないのだ。

フランクフルト到着は午後7時予定とのこと。
7時かよ!時間がかかるなあ・・・。

だが、上に書いたとおり、どうなるか分からない状況下でひたすら待つことの方が、わたし的には辛かった。どんなに時間がかかっても、午後7時にフランクフルトに到着できる、そっちの安心の方が大きかったのだ。

定刻にバスはやってきた。バーゼルを出発、スイスを脱出。フランクフルトまで6時間もかかるのは、直行ではなく、主要都市の各駅のバス停を停車していくためだった。
道中、なるほど確かに風が強い。でも、車の運行に支障をきたすほどではない。雨はほとんど降っていない。嵐は確実に過ぎ去り、弱まっているのだろう。

予定どおり、午後7時にフランクフルトに到着した。長かった~。
しかし、まだまだやるべきことがある。
先に述べたとおり、帰国フライトの調整が必要だ。

「既に、フランクフルト-羽田間のフライトを当初の予約で持っているんだろ? それで乗ればいいだけなんじゃないの?」

チッチッチッ。違う。甘いね。

区間のうち一区間だけをキャンセルするということは、すなわち自分の予約全体の変更に該当するということだ。そもそも変更不可の格安航空券。きちんと調整を図らないと、フランクフルト-羽田間のフライトも自動的にキャンセルされてしまう。
これが格安航空券のリスクであり、落とし穴であり、恐ろしさでもある。

すぐにフランクフルト国際空港に向かい、ルフトハンザのサービスセンターへ。
乱れに乱れたドイツ国内のフライト。この時間になってもセンターに押しかけている客はまだたくさんいて、順番待ちを約1時間強いられた。はぁ~・・やれやれ・・。
ようやく対応してくれた担当者に、事情を説明。担当者は私の苦境を理解し、快く予約変更に応じてくれた。
(ここで「変更できません」と言われたら、私はバッタリ倒れて死ぬところだった。)

午後9時。ミッション、コンプリート。
いや、正確に言うと、まだ終わっていない。最後の一仕事、それは今晩のフランクフルトのホテル確保だ。これまた携帯端末からホテルの検索サイトで一発簡単予約。

ちなみに、ドレスデンのホテルは当日ドタキャンのため、宿泊代は100%チャージ。返金なし。さらに新たな予約によって、宿泊代がダブル加算になった。

ああ・・・なんてこった・・・。この日、いったいいくら余計な金がかかった??
恐ろしい。もう嫌だ。考えたくもない・・・。

でも、これでようやく明日、帰国できる。
長かった一日。疲れた。マジ疲れた。だけど、なんだかホッとした。

マイスタージンガーを聴けなかった悔しさは、もう消え失せていた。それどころじゃなかったもんな、うん。
よし、このまま完全に記憶からデリートしてしまおう。今回の旅行は、チューリッヒで3つのオペラを観、それで完了した。
バルトリ様御出演のオペラ、観られたんだぜ!? 良かっただろ!? 満足だろ!?
フィデリオだって良かったよな? ヴォツェックだって良かったよな? な? な?
必死に自らに言い聞かせた。

空港からSバーンでフランクフルト中央駅に戻った。駅構内の電光掲示板で、午後9時45分時点の鉄道運行状況を確認してみた。ダイヤはすっかり回復。強風も、いつの間にか収まっている。
どうやら嵐は完全に過ぎ去り、ドイツに平常が戻ったようだった。
ほれ、ジークムント、ここだ。ここで歌ってくれ、例のアリアを。オレのために。ほれ!

ホテルにチェックイン。午後10時。およそ16時間の格闘に終了宣言。
さて、と。
メシ、食いに行くぞ。飲んだるわい。ガブ飲みだぜコノヤロー。くそったれめが。
最後の最後までヤケクソだった。

おわり。
久しぶりにブログ記事書き、燃えました(笑)。