2020年9月18日 NHK交響楽団 東京芸術劇場
指揮 広上淳一
ウェーベルン 緩徐楽章(弦楽合奏版)
R・シュトラウス 歌劇「カプリッチョ」より前奏曲(弦楽合奏版)、組曲「町人貴族」
コロナのおかげで、というと語弊があるが、密を避けるためのプログラム変更によって、逆に魅力的な作品を鑑賞するチャンスが幾つか生まれている。
東京シティ・フィル然り、読響然り。そしてこのN響。
もっとも、これらはあくまでも私の個人的な嗜好に合致しただけなのだが。
主催側からしてみれば苦渋の決断による変更かもしれないが、私なんかは「むしろ、最初からこういうプログラムで行けよ」なんて思っちゃうわけである。
とはいえ、弦楽合奏作品だったり、小規模編成作品だったりは、やっぱり楽団員の出番の問題があって、積極的に組めない事情があるのだろう。
だから、最初に書いたとおり「コロナのおかげで」という言い方になるわけだ。
まあ、とりあえず何事も前向きに捉えようではないか。
ウェーベルンの緩徐楽章は、生で初めて聴いた。
元々は弦楽四重奏のための作品だが、弦楽合奏のしっとりとした響きがなんとも心地よい。
十二音技法で有名なウェーベルンだが、若かりし頃の習作のため、まだ和声がそれほど複雑でなく、マーラーの延長上として、とても聴きやすい。
続いてカプリッチョ。
こちらも元々は弦楽六重奏で、シュトラウスのオペラとして慣れ親しんでいる作品だが、やはり弦楽合奏ならではの響きの美しさが際立つ。
そして、町人貴族。
N響の皆さんはさり気なく演奏しているが、個々のソリスティックな演奏技術の安定感がバツグン。何とも言えない優雅さに、思わず「さすが、上手い」と唸る。この作品はしっかりと手中に収めて上手に演奏しないと、しばしば退屈感を催してしまう。結構難しい曲なのだ。
指揮の広上さんのタクトは、いつものようにタクトだけでなく体全体を使った表現力がとてもユーモラス。
一見すると、音楽に合わせて躍っているだけのような感じだが、実は正反対で、あの動きで音符に生命感や躍動感を吹き込んでいるのだ。ヒューマニティ溢れる音楽が実に素晴らしい。
それにしても残念だったのは、客入り。ガラガラ。
これはもう、ソーシャルディスタンス確保のための座席配置の結果じゃなくて、単純に不入り。
プログラムの変更、指揮者の変更、会場・・・。
すべてが裏目に出ちゃったわけだね。あーあ。
私の個人的な嗜好との合致は、ライトなお客さんからは相容れられず、客席が埋まらないという厳然たる事実・・・。
演奏が良かっただけに、つくづく残念。