2024年11月12日 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 サントリーホール
指揮 アンドリス・ネルソンス
五嶋みどり(ヴァイオリン)
プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第1番
マーラー 交響曲第5番
Myデータベースで検索してみたら、ウィーン・フィルの公演をこれまでに50回以上聴いているが、マーラーの交響曲はたったの3回しかないことが分かった。(今回を除く)
これは意外だった。
プロ・オケにとって重要なレパートリーであり、オケの実力や真価を最大限に発揮でき、なおかつ人気があってお客さんのウケも良いマーラー。
しかも、マーラーはウィーンに拠点をおいて活躍し、ウィーン・フィルにとって「自分たちの」作曲家の一人。私自身マーラー作品は好きだから、やってくれれば、それなりに駆けつけるはず。
それなのにたったの3回とは・・。
まあ、“たまたま”だということ、それから、ウィーン・フィルはそれだけ多彩なレパートリーを持ち、偏らないたくさんのプログラムを用意して来日してきたということなのだろう。
(ドヴォルザークばっかりのチェコ・フィルとは、やっぱ違うからな(笑))
今回のマラ5を聴いて、「ああ、やっぱりウィーン・フィルのマーラーだ!」と思った。
一流の外来オケが勝負曲としてこの曲を引っ提げて来日することも多いから、上手い演奏、輝きに満ちた演奏は、何度も聴いてきた。
だが、ウィーン・フィルのサウンドは、一味違った。
圧倒的な迫力の中にも節度があって、きらびやかというより、豊潤、濃厚、しっとり。
特に、弦楽器群の艶のある柔らかな響きは、本当に魅力に溢れ、痺れた。
こうしたサウンドは、もしかしたら指揮者ネルソンスが構築したものかもしれない。
だが、彼のタクトを見ていると、音楽の外枠や方向性、あるべき姿を示しながら、音の創造やニュアンスに関してはオーケストラに任せ、委ねていた印象だった。(個人的に、そのように見えた。)伝統あるウィーン・フィルとの揺るぎない相互信頼。だから、やはりこれは「ウィーン・フィルのマーラー」ということで、私はいいと思う。
ネルソンスは、指揮をしながらも、常に指揮台(譜面台)に置かれた楽譜に視線を落としていた。
これほどのポピュラー曲だから、ネルソンスにしても、レパートリーとして当然頭に入っているはずであろう。
それなのにスコアを注視していたのは、これはあくまでも推測だけど、ウィーン・フィルによるマーラーのサウンド作りをしっかりと受け止めるための確認作業だったのではあるまいか。
そう思った。
一曲目コンチェルトのソロを弾いたMIDORIさん。
今回5年ぶりに聴き、ずっと若い頃から聴いているが、演奏スタイルが変わってないなと思った。
身体を前傾させ、右足を前に踏み込み、襲いかかるかのような凄みの姿勢。
ヴィブラートをあまりかけず、金属的で、弦から火花が出るかのような鋭い音。
もちろん、演奏家として特徴、特色を保持するのは良いことであり、それが彼女の個性である。
今回のプロコフィエフでは、いくつかの箇所の中で“あえて”自分のソロ音をオーケストラの伴奏に溶け込ませ、全体のハーモニーの中で姿を消す、ということをやっていたように見受けられた。
コンチェルトとして、ソロ音を浮かび上がらせることに注力するソリストが多い中、さすが五嶋さん、ベテランの域に差し掛かった余裕の演奏だと思った。
ところで、ネルソンス。痩せたね。びっくりした。
健康なダイエットによるスリムということで、いいんだよね。大丈夫だよね。
(嫌だよ、病気なんて。)
今回のウィーン・フィル来日公演は、この1公演のみで終わり。
そりゃ全部行ければいいけどさ・・・高いんだってば。