2008年12月17日 ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 ムジークフェライン(楽友協会ホール)
指揮 チャールズ・マッケラス
アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)
モーツァルト 交響曲第41番‘ジュピター’
モーツァルト ピアノ協奏曲第9番‘ジュノム’
シューベルト 交響曲第4番‘悲劇的’
今回の旅行のハイライトであり、一大イベントであった。
実を言うと、当初この公演を聴きたいと思った一番の理由は、まだ一度も生で聴いたことのない指揮者マッケラスにあった。
マッケラス・・・果たして日本に来たことがあるのだろうか?
ひょっとして一度もないかもしれない。(それこそはるか昔にあるかもしれないが、少なくとも私の知っているここ20年くらいで来日指揮者として名前を聞いたことはない。)
つまり、日本人にとっては幻の指揮者なのだ!!しかも、もう御年83歳だ。指揮者界のシーラカンスではないか!その伝説の巨匠を見、聴くチャンスが訪れたのだ。
ところが、そんな私の思惑とは別に、実はこの公演にとんでもないプレミアムが付いていた。
アルフレッド・ブレンデルの引退公演である。
ブレンデルは今年で引退を決め、お別れさよなら公演で世界を回っていた。そしてついにウィーンでのラスト公演を迎えたのだ。
チケットの入手は難を極めた。そりゃそうだろう。ブレンデルは生まれこそチェコだが、ほとんどオーストリア人のようなものだ。地元といってよいウィーンでのサヨナラ公演は音楽ファンなら誰もが聴きたいであろう。
運良くチケットが手に入り(次回のブログにて、「ウィーンフィル(現地)のチケット入手方法」を伝授しようと思う)、いざ黄金のホールに入ってみると、それでもやっぱり日本人がいるいる。フラッシュ炊きまくりのおのぼり観光客。
あなたたちいったいどうやってチケット取ったの?
今日の公演がどれくらいプレミアムなのか知っているの?
なんて心の中で叫びつつ、私だって上のように写真を撮っている。現地の音楽ファンにとってみれば私も同類なのだ。せめて、私は指揮者とピアニストに最大級の敬意を表し、襟を正し、正座をするくらいの気構えで正面を見据え続ける。
演奏について述べましょう。
まず、マッケラスが80歳を超えているにもかかわらず、非常に元気でダイナミックな指揮ぶりにおもわずうれしくなる。普通はオケ側が「老匠に合わせてあげましょう」的になるが、マッケラスは一生懸命に自らの音楽をタクトでコントロールしていた。テンポも、ご老体にありがちな「ゆっくり」ではなく、きびきびと前に進んでいる。若々しく弾むような演奏で、本当に素晴らしかった。
そしてブレンデル。こちらはやはりテクニックはさすがに衰えた。しかし、熟成された懐の深い音楽と、滲み出る暖かい人間性がこれを完全にカバー。席が前の方だったので、彼の歌い声(うなり声?)が聞こえる。あたかも祈っているかのように。あるいは天国のモーツァルトと対話しているかのように。
演奏が終わると、割れんばかりの大喝采。もちろん聴衆は全員スタンディングオーベーションだ。惜別の情をこらえきれずに泣いている聴衆もいた。ブレンデル自身だって感傷的であっただろう。だが、彼は普段と変わらず、やや恥ずかしそうに小さくペコペコと頭を下げながら、いつまでも終わらないカーテンコールに応えていた。それは、本当に本当に感動的なシーンであった。
お疲れさま、ブレンデル。この公演を聴けたことに感謝します。