
演出 ヴィリー・デッカー
ニーナ・シュテンメ(ブリュンヒルデ)、アンドレアス・シャーガー(ジークフリート)、ファルク・シュトルックマン(ハーゲン)、イアイン・パターソン(グンター)、エディット・ハッラー(グートルーネ)、クリスタ・マイヤー(ワルトラウテ)、アルベルト・ドーメン(アルベリッヒ) 他
現在望み得る最強のキャストが揃った豪華な公演が、ここドレスデンにて実現した。
この布陣、かなり凄い。バイロイトでもなかなかこうはいかない。
新シーズンプログラムでこの公演を見つけた瞬間、ドレスデン行きを決めてしまった。即断即決、躊躇なし。
私も、なんと偶然昔の知り合いにも出くわした。挨拶は「やっぱ、来ますよね! ですよねー!」だった。
実際の演奏は、期待を遥かに凌駕した。
何がすごかったって、ティーレマン率いるSKDの、まるでアルプスのような巨大な塊の演奏、そして大海の群青色のような濃厚な演奏が、究極の絶品だった。「こんな演奏、ありか!!?」っていうくらいすごかった。これは神懸かりの演奏だ。
いやぁーー、まいった。まいったとしか言いようがない。これをやられたら、ひとたまりもない。
これは自分におけるワーグナー鑑賞の絶頂であり、極みだろう。
これまでもかなりの上質のワーグナーを聴いてきたつもりだ。
それでも、「これ以上はないな」と断言できる。こんな演奏されちゃったら、もう他のどんな演奏も聴けないじゃんかよ、と思う。
(えーと、聴きますけど・・・)
歌手について。
・・・んー、もっとましな例えはないものか。
えーと、松茸とトリュフ、フォアグラとキャビア・・。
すまん、もうやめとく。
コロとベーレンスに並んじゃったんじゃないかなあ。
超えたとは言わんが。
シュテンメさん、夏のザルツ音楽祭では見事にフラれたが、こうして彼女の真骨頂を見せつけられて、もはやぐうの音も出ない。完全脱帽。ひれ伏すしかない。
ハーゲンのシュトルックマンは、第一幕を聴いた時、「この役は合ってないんじゃないか」と思ったが、第二幕以降はさすがの貫禄を見せた。
どの黄昏を聴いてもいつも冴えない感じのグンターだが、今回は違った。パターソン、存在感があった。
演出について。
堅実なデッカーらしい、正攻法の演出だ。極端な読替えは避けられ、目からウロコの仰天解釈はそれほど見当たらない。
もっとも、観たのはあくまでも四部作のうちの一つだから、シリーズを通じて何か訴えかけるものがあったのかどうかは、分からない。
(通常なら、最後の黄昏で結論を出してくるはず。それでこれだったのだから、やっぱり穏当に終始したのではないかと推測する。)
新国立劇場の「ピーター・グライムズ」で繰り広げた、民衆の興味本位的で一律的な集団行動を示す演技が、この作品の演出でも見られたのは興味深かった。
