本当に失礼なことを言ってしまうが、私はビエロフラーヴェクについて、「大物の指揮者」というイメージを持っていなかった。チェコを代表する指揮者と言えばクーベリックやノイマンであって、どうしても彼らより格下、小粒、中堅の扱いだった。
これまでにビエロフラーヴェクが振った公演に足を運んだのは5回。
それが、今年の秋、彼が振るというチェコ・フィルの来日公演に、どういうわけか強く惹かれた。「久しぶりにビエロフラーヴェクを聴いてみたい」と思ったのだ。
アルブレヒト、アシュケナージ、インバルなどの外国人を首席指揮者として受け入れてきた名門チェコ・フィルが、そのポストに再びビエロフラーヴェクを迎えた。中堅だと思っていた彼も、いつの間にか70歳を越えている。
ひょっとして、今こそがビエロフラーヴェクにとって最盛期なのではないかと思った。
それはきっと、チェコ・フィルにとっても。
選んだのは、「わが祖国」を振る10月1日の横浜公演。
本当は、「わが祖国」は大好きな曲ではない。でも、もし黄金時代の到来だというのなら、聴くべきは他のプログラムではない。「これしかない」と思った。
だが、私は「わが祖国」を選び、そしてチケットを買った。そのことに何の躊躇も後悔もなかった。「ビエロフラーヴェクを聴きたい」という衝動が勝ったのだ。「名演になるのではないか?」そんな予感がした。
その機会は失われてしまった。永遠に。
残念・・・。本当に残念。