クラシック、オペラの粋を極める!

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2016/11/3 ラ・ファヴォリータ

2016年11月3日  バイエルン州立歌劇場
ドニゼッティ  ラ・ファヴォリータ
指揮  カレル・マーク・チション
演出  アメリエ・ニールマイヤー
エリーナ・ガランチャ(レオノール)、マシュー・ポレンザーニ(フェルナンド)、マリウシュ・クフィエチェン(アルフォンソ)、ミカ・カレス(バルサザール)、ジョシュア・オーエン・ミルズ(ドン・ガスパール)、エルザ・ベノワ(イネス)
 
 
演目はマイナー、指揮者もたぶんマイナー(ガランチャの旦那さん)、演出家もたぶんマイナー。
「チケットなんて簡単に取れるさ。」そう思った。
ところが、意外にも第一次抽選で外れた。一般発売日にネットで何とか確保したが、あっという間に完売。ぼやぼやしていたら取れなかっただろう。
 
新演出ということもあるが、これはやはり「ガランチャが出演したから」で間違いなさそうだ。
 
もちろんクフィエチェンだってポレンザーニだって十分に一流である。
だが、彼らがチケットをプラチナにしたということはちょっと考えにくい。
 
欧州ではこうしたごく一部の歌手の登場によって、いきなりチケット入手難となる場合がある。ガランチャもそうしたスター歌手の一人である。
 
彼女には女性歌手として絶対的な武器を持っている。
「美貌」である。キラキラと輝くブロンドの髪。キリッとした目。モデルのような美しさ。
彼女が登場すると、聴衆の視線が一斉に彼女に注がれ、温度が上がる。その神々しさといったら!舞台映えは完璧。しかも肝心の歌唱も超一流。そりゃスターになるわな・・・。
誰もが彼女が出演するオペラを見たい。従ってチケット入手難になるのも当然、というわけだ。
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 日本で拝むことができないため、こちらの期待も急上昇。そうした期待に見事応えてくれたガランチャだったが、だからといって決して彼女の独り舞台でなかったのが、このプロダクションの特長だ。
クフィエチェンとポレンザーニ。ガランチャに決して劣らぬ存在感。
どうやら彼らは勝負に打って出たようだ。「ガランチャに全部持っていかれてたまるか。」
 
舞台では、こうして三つ巴でバチバチの火花が散った。やがて火花から引火し、メラメラと燃え盛る炎と化していった。やけどしそうなほどの真剣勝負の熱演。聴き手であるこちらの手のひらに、じんわり汗が滲む。
すごい!すごすぎる!
歌手たちが、か?
いや違う。歌劇場だ。
やっぱりここは世界トップレベルの歌劇場だった。バイエリッシェ・シュターツオーパー、恐るべし。
 
演出は現代に置き換えているものの、物語のすじを変えてしまうような読替えではない。
 
一時、欧州では物語を完全に変えてしまう読替えが流行ったが、どうも最近の最先端演出事情はちょっと傾向が変わってきた感じがする。
 
なんというか、「インスピレーションに基づいたイメージの再構築」みたいな趣なのだ。
 
その結果、「演出の意図はこれこれこうだった」などと解読するのが、難しくなっている。説明は出来ないけど、とにかく斬新。どのように捉えるかは、観客の自由な想像力に委ねられているのである。
 
それでも、アイデアによってちりばめられた創意工夫については、「なるほどね!」と頷くことが出来る。
 
作品のタイトルはファヴォリータ、すなわち「愛人」、「妾」。
舞台芸術というとどうしてもお上品になるが、今回の演出家は王たる男が囲んでいる愛人への扱いを、これでもかとあらわにする。アルフォンソはレオノーレの顔や身体をベタベタと触りまくり。早い話が、性的衝動の対象なのだ。真実はそういうこと。
 
ただし、目を背けるほどではない。いやらしい世界でなく、だからこそ本物の純愛や、信仰との狭間で苦しむ葛藤が浮かび上がってくる。そこが大きなポイント。大がかりな舞台装置が、迫力を伴ってもってそれらを伝えてくる。お見事な演出だったと思う。