今年のバイロイトのパルジファルを降板したネルソンス。キャンセルしたのはあくまでも今年だけで、来年はしっかり戻ってくるのではないかという期待もあったが、来年のパルジファルもヘンヒェンになるということがバイロイトから正式発表された。
次の新制作リングの指揮はネルソンスと噂されているが、果たして帰還はあるのだろうか。
もはやバイロイトのリングを振ろうが振るまいが、今やアンドリス・ネルソンスは文句なく世界の楽壇のトップ級。まだ37歳だが、俊英の域はもう既に駆け抜けてしまって、その動向が注視される極めて重要な指揮者になりつつある。
ドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、ボストン響とはショスタコーヴィチを、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管とはブルックナーを録音していくほか、ウィーン・フィルとベートーヴェン交響曲全曲録音も計画されているそうだ。これだけで、いかに彼の存在が大きいかがわかる。
特別公演に相応しく、ゲストに奥さんのK・オポライスとカリスマテノールのJ・カウフマンが出演して、花を添えている。スター歌手の競演は、それはそれで熱を帯びていて素晴らしい。
だが、ここは一つ、徹頭徹尾ネルソンスに注目したい。主役はあくまでも指揮者なのだ。
身振りの大きいタクトだが、見た目にとらわれずに注意深く音に耳を傾けると、いかに繊細に音を作っているかがよく分かる。ネルソンスが追及している音が、ディティールにまで染みわたり、再現されている。なので、注目したいのは派手に鳴っている部分ではなく、ピアニッシモの部分だ。まるで見えない所にまで磨きを入れている職人技術のようで、唸ってしまうほどである。
オペラアリアの伴奏では、歌手の情熱にオーケストラがピタリと寄り添う。ロマンティックで色っぽい艶が発散して、あっという間にステージに色とりどりの花が咲く。今後はオーケストラの公演が軸になるのだろうが、オペラも是非平行して取り組んで欲しい。彼のリアルな真価が現れるのがオペラだ。