2016年3月19日 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(フェストターゲ) フィルハーモニー
指揮 ダニエル・バレンボイム
日本にいても良質のコンサートを聴くことはできる。けれども日本にいては良質のオペラを観ることはなかなかできない。だから私はオペラを目的として海外に行くし、たいていの場合、オペラが海外遠征のハイライトになる。
ところが、今回は違う。もちろんオペラも観たが、遠征の第一目的でありハイライトはこの公演だった。この公演があったからベルリン行きを決めた。
だってさあ、この公演すごくない?
世界最高の指揮者(の一人)と世界最高のオーケストラとの黄金の組み合わせ。ウィーン・フィルは毎年のように日本にやってくるけど、このコンビではかつて一度も実現していないんだぜ。
しかも曲目はマラ9ときた。究極の勝負曲である。このチャンスを逃すことは、わたし的にはあり得なかったのである。
開演時刻になると、ステージ上に先頭を切ってライナー・ホーネックが登場した。最初にコンサートマスターが入場する独特のステージマナー。
「うわぁ、紛れもなくウィーン・フィルだあ」
音楽は、とにかく、とにかく厳しい。救いがなく、緩さがなく、息苦しささえ感じる厳格なマーラー。
この作品、最終楽章は辞世の句ではなかったのか?天国への階段ではなかったのか?
いっその事とどめを刺してくれればいいのに、突き落としてくれれば楽になるのに、安らかな死への憧憬を安易に許さないバレンボイム。
「生きていくことは辛いが、それでも我々は生きていかなければならない」というメッセージが聞こえる。これはきっとユダヤ人としての魂の叫びだ。
それにしても、指揮者の峻厳な要請に応え、まるで歯を食いしばるかのように鳴らすウィーン・フィルの壮絶かつ戦慄の響き。演奏を聴いて、これほど「恐ろしい」と感じた公演が今まであっただろうか・・・。