一見すると複雑怪奇なリズム様相を呈しているハルサイは、実は意外なほど単純明快な規則性が貫かれているとのことで、黛氏のわかりやすい解説に私自身かなり目からうろこだったことをよく覚えている。(今となっては、講義の内容そのものはほとんど忘れてしまったが・・。)
この時点でブーレーズは既に作曲家としても指揮者としても活躍していて、世界的に高名な音楽家だったが、私自身が「ピエール・ブーレーズ」という人物を強く意識し始めたのは、そういうわけで何を隠そう「ハルサイを科学的に解明した学者として」であった。
ブーレーズが指揮して録音したCDも、何枚か持っている。
その中には、もちろんハルサイもある。
1969年、クリーヴランド管と録音したもの。上記のこともあって、どことなく理論分析的で非常に明快な演奏のような気がしてならない(笑)。
一方で、マーラーについては、残念ながら私の好みと異なり、物足りなかった。
来日公演では、2002年にロンドン響、2003年にG・マーラー・ユーゲント管と、二年続けてやってきて、いくつかのプログラムを披露したのが記憶に残っている。特にポリーニと共演したバルトークピアノ協奏曲第1番は壮絶な名演だったが、この演奏に関しては「ブーレーズの」というよりは「ポリーニの」という感じで、これはまあ仕方がない。
ところが、当時の祝祭管メンバーだったヴァイオリン奏者真峰氏によると、初演時のブーレーズは、指揮するにあたって明らかな準備不足で、振り間違いも多く、指揮者らしいことをほとんど何もできなかったらしいというのだから驚く。
祝祭管メンバーの中には、「翌年もブーレーズが振るというのなら、自分は降板する」と反旗を翻す人も多かったとのこと。(真峰さんもその一人だったらしい。)
音楽家として天才と評されることが多いだけに、こうしたエピソードは意外であるが、同時に「彼もまた人間」であることを物語って面白い。