アーノンクールが引退を表明したそうだ。86歳。潮時だったのだろうか。まだまだタクトを振れそうな気もするが。
考えてみれば、時代の流れに逆らって古楽器によるピリオド奏法を積極的に取り入れたいわば先駆者である。先駆者というのは、だれもが最初は強い風当たりを受けるもの。でも、最終的にはそうした奏法や解釈は完全に確立された。先見の明が正しかったことが証明されたわけだ。
長旅による時差がダメという理由で、かつては来日が期待できない幻の指揮者だった。「来てくれないのなら行くしかねえ」とはるばるウィーンに出掛けたこともある。
ところが「長旅しても、体調に大きな影響を及ぼさない」と本人が理解したのだろうか、ある時を境に来日回数を重ねてくれるようになった。
個人的に思い出深いのは、やはり最後の来日となった2010年10月、バッハのロ短調ミサ曲、それからハイドンの天地創造だ。特にハイドンは究極とも言えるような凄演だったが、会場には空席が目立ち(台風直撃の影響もあったが、それだけが理由ではなかったと思う)、私はアーノンクールに謝りたい気持ちでいっぱいになったことを覚えている。