「ユダヤ人とクラシック音楽」(本間ひろむ著:光文社新書)という本を読んだ。
宗教的な側面、民族と紛争の側面、ホロコーストなどの歴史的側面、金融や財閥、経済的な側面など、いつの時代においても世界への影響度を保持してきたユダヤ民族。ご承知のとおり、音楽的な人材面においても、その存在価値と確立された地位は計り知れないほど大きい。
誰もが知っているハイフェッツ、ホロヴィッツ、パールマン、バレンボイム、ブルーノ・ワルター、メニューイン、バーンスタインなどといった錚々たる顔ぶれ、綺羅星のごとく輝くスターたちの名前に、ファンである我々はただただため息をつくばかり。もうこれだけで、「ユダヤ人、偉大だなあ」と思ってしまう。
本書では、ワーグナーやヒトラーとユダヤ人との確執から、フルトヴェングラーやカラヤンにユダヤ人との意外な接点があったこと、世界各地で活躍する音楽家達の紹介、そして日本の楽壇に影響を与えた音楽家まで、あらゆる角度からの切り込みが入っていて、読み応えがある。興味のある方には是非とも推薦したい一冊だ。
私自身も本書によって新たな発見や知識を見つけることが出来たのだが、あとがき後に添えられたユダヤ人音楽家一覧を眺めながら、改めて「へえー!」と驚いたことがあったので、そのことをご紹介したい。
ただし、別に私自身が見つけた新たな発見というわけではなく、知っている人なら、別に今さら的な事実かもしれないので、それは予め断っておく。(「そんなことも知らなかったの?」なんて言っていじめないでね)
ミシャ・マイスキー、ユーリ・バシュメット、クレーメル、ギレリス、ハイフェッツ、ホロヴィッツ、オイストラフ、レオニード・コーガン、ナタン・ミルシュテイン・・・。
あくまでも私自身のイメージなのだが、彼らは「旧ソ連」の音楽家たちだ。
ところが、ソ連が消滅し、そこから独立した現在の国家に置き換えると、上記の音楽家は全員が「ロシア以外」の出身なのである。このことに私は今更ながら驚いた。
マイスキー=ラトヴィア、バシュメット=ウクライナ、クレーメル=ラトヴィア、ギレリス=ウクライナ、ハイフェッツ=リトアニア、ホロヴィッツ=ウクライナ、オイストラフ=ウクライナ、コーガン=ウクライナ、ミルシテイン=ウクライナ。
こうしてみると、特にウクライナからもの凄い才能が次々と生まれ出ていたことが分かる。ユダヤ人ではないがリヒテルもこの国出身。いや、ほんとに驚いた。
出身国という括りでもう一つびっくりしたこと。
フリッツ・ライナー=1888年ブダペスト生まれ、ジョージ・セル=1897年ブダペスト生まれ、ユージン・オーマンディ=1899年ブダペスト生まれ、ゲオルグ・ショルティ=1912年ブダペスト生まれ・・・。
ハンガリーの首都から排出された伝説的な名指揮者たち。彼らのいずれもがアメリカの名門オーケストラのシェフだったというのが、とても興味深い。これは偶然なのだろうか。まさか、あえてユダヤ系ハンガリー人指揮者を探して見つけて連れてきたわけじゃないと思うのだが。
民族という側面、それから国という側面、その両方の視点からユダヤ人音楽家を見直すきっかけを本書は与えてくれた。とても面白かった。