B・A・ツィンマーマン ある若き詩人のためのレクイエム
指揮 大野和士
合唱 新国立劇場合唱団
ジャズ・コンボ スガダイロー・クインテット
森川栄子(ソプラノ)、大沼徹(バス) 他
現代音楽が苦手な私がこの公演に行ったのは、単なる興味、好奇心からだ。音楽には何も期待していない。ていうか、聴く前からこれが音楽であるとみなしていない。どうせ聴かされるのは「音響」だけだということを分かっている。
この作品は、声、言葉、朗読、演説、更には様々な音楽ジャンルの断片を混ぜ、コラージュし、重ね合わせ、他チャンネル化させるという壮大な試みである。私のような専門家ではないシロウトの観客は、その効果と実証を確かめているにすぎない。それゆえ、「何が起きるのか、どういう効果が得られるのか」という体験の関心こそがすべてになってしまう。
ということなので、演奏の感想、作品に対する感想は、「特になし」。その体験の効果については、「ふーん、なるほど、面白いね」となる。
わざわざ聴きに行った甲斐があったかと問われれば、普段体験できないものを体験できたわけだから「あった」と答えることになろう。ただし、もう一度同じ体験をしたいかと言われれば「一回で十分」。
大幅に譲歩してこれを音楽だとみなした場合、一つ残念なことがあった。
それは、作品の大半を占めるのがテープ録音であるため、指揮者も演奏者もテープ録音に合わせなければならないということだ。指揮者の横にはデジタル表示のストップウォッチが演奏中に計測されていた。ゆっくりすることも早くすることも途中で止めることも許されない指揮者の役割とはいったいなんだったのだろうか。
なにはともあれ、この難解な作品が上演の運びとなったこと自体はおそらく画期的であろう。だが、ただ単に「画期的」「意義があった」「貴重な公演だった」「日本初演だぜ」というだけで評論家が選ぶ「2015年コンサートベストテン」にランクインされることだけは、まっぴら御免こうむる。