指揮 秋山和慶
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ベートーヴェン エグモント序曲
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番
もちろんそのことは知っていたし、70年前のことは日本人として決して忘れてはならない記憶である。広島交響楽団が東京で行った公演の意義はかくも大きい。
だが、もしマルタ・アルゲリッチがこの公演に参加しなかったら、私はこの公演に行っただろうか。全席完売となる公演になっただろうか。答えはNOだろう。
世界的なアーティストが趣旨に賛同し、立ち上がってくれたことで、これだけの注目公演に位置づけられた。平和を世界に訴えることに関し、アルゲリッチは音楽家として出来る最大限の仕事をされた。氏には心より感謝と敬意を表したい。
演奏的には、当然のことながらそのアルゲリッチのコンチェルトが白眉、ダントツの水準であった。
彼女に接するのは5年ぶり。演奏者は当然その分年齢を重ねているわけだが、その瞬くような閃き、きらめきは以前とまったく変わっていない。
オーケストラの前奏に続いてピアノの演奏が始まると、その瞬間から音楽に吸い込まれる感覚に陥る。アルゲリッチの演奏はその場の空気を変えるパワーがある。聴いている人を金縛りにさせてしまうパワーがある。そのすごさといったら・・・。
アルゲリッチのピアノを聴ける幸せ。そして喜び。毎年のように彼女の演奏を聴くことが出来る大分の方々が羨ましい。天皇皇后両陛下も、平和を祈念するこのコンサートにおいて、偉大な芸術家の音楽をさぞ感慨深くご鑑賞されたものと思う。
秋山和慶が指揮する広響、もちろん初めて聴いたが、かなり良い水準だとお見受けした。公演の意義深さやサントリーホール初見参ということもあって、演奏に賭ける意気込みは十分に伝わってきたし、それが良い結果をもたらしたことは間違いないだろう。