2015年7月22日 サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル
ムソルグスキー ボリス・ゴドゥノフ
指揮 レイフ・セーゲルスタム
演出 ニコラ・ラーブ
マッティ・サルミネン(ボリス・ゴドゥノフ)、アルテム・グルツコ(ヒョードル)、アンナ・インモネン(クセーニャ)、クリスティアン・ユスリン(シュイスキー)、タラス・シュトンダ(ピーメン)、ミカ・ポホネン(偽ドミートリ) 他
フィンランド出身の世界的なバス歌手、マッティ・サルミネン。彼が故郷の音楽祭でタイトル・ロールを歌うというのが、本公演最大の注目だ。
80年代から90年代にかけて特にワーグナーなどのドイツ物で大活躍したサルミネンも、今やすっかりベテラン。キャリアとしては終盤に差し掛かったと言ってもいいかもしれない。
そのサルミネンだが、やはりというか「枯れてきたな」という印象だ。
オーラや存在感はある。依然として。歌だけでなく、目だけで演技する鋭さも残っている。だが、声は以前よりも随分と小さくなり、迫力が失われた。
もちろん、これを「円熟の佇まい」と称えることだって可能だろう。
独特の重量感と威圧感で揺るぎない地位を確立していたサルミネン。彼をよく知る昔からのオペラファン、特にワグネリアンは果たして近況をどう評価するのだろうか。
実はこの日、フィンランドが誇るもう一人の世界的バス歌手の命日であった。メモリアルとして開演前から舞台のセットにその歌手の写真を投影させていた。私よりももっとオールドなファンだと、フィンランドのバス歌手といったらサルミネンではなくてこの人なのかもしれない。
「マルッティ・タルヴェラ」
なんだか私には、単なるタルヴェラのメモリアルとは受け止められなかった。伝説的歌手にもう一人の英雄が横に並んだ記念すべき日。それを披露するための公演ではなかったか。例えキャリアの終盤で歌唱力が枯れてきたとしてもサルミネンはサルミネン。偉大なのだ。そのキャリアは輝かしく、決して色褪せることはない。
舞台演出的には、あまり特筆すべきものはない。舞台中央にキューブを設置。それが一室にもなるし、宮殿そのものにもなって、庶民との格差を象徴させたり、閉鎖性を表したりする。だが、それらはいかにもありがちな手法ではある。
度肝を抜かれるほど迫力に圧倒されたのは合唱。鳥肌が立った。一方で、セーゲルスタムが紡いだ全体的な音楽は、残念ながらそれほど琴線に響いてこなかった。