指揮 トーマス・ヘンゲルブロック
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(ヴァイオリン)
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲
ベルリン・フィルの黄金期を支えた伝説の名手。近年はその名を耳にする機会も減り、てっきり引退していたのかと思っていたら・・・。賛助出演だと思うが、アンサンブルをまとめようと体で合図するその動きに、かつての風格と「まだ若い者には負けん」みたいなプライドが見えて、思わずニヤリ。演奏後に同じクラリネット奏者に「グッジョブ!」みたいに肩を叩いて讃えていたのも「あんたエキストラの立場でしょ?」で、これまたニヤリ。
なんだかんだいって、こちらの目のやり場は、ソリスト3分の1、指揮者3分の1、ライスター3分の1。ライスターはそれくらい今もなおオーラが出ていた。ただ、ステージを立ち去る際の歩き方は、やはりおじいちゃんって感じ(笑)。後半のマーラーも出てくるのかと期待したら、前半のみだった。
シュタインバッハーのメンデルスゾーンは、女性らしい繊細な演奏。冒頭の有名な旋律は、まるで夢心地のようなフワフワした感覚。美しい。が、やや弱い。アンコールのプロコフィエフでは一転してパワフルさが強調されていたので、このメンデルスゾーンの演奏はソリストのスタイルというより、解釈だったのだろう。指揮者ヘンゲルブロックが、まさにそうした流れにピタリと合わす絶妙の伴奏。
そういえば、前回のNDR来日公演もプログラムにメンコンが入っていた。ソリストはテツラフだったが、全体的な演奏の印象はかなり異なる。ソリストの演奏解釈によって、その時々で音楽を再構築させる結果ということか。
メインのマーラーは、ハンブルク稿による演奏を私はとても楽しみにしていた。初めて聴く。花の章が入っているのはもちろん知っていたが、その他のオーケストレーションは「あ!そうくる!?」みたいな感じで単純に面白い。かつ、原型が顕になったということでとても興味深い。
ただし、強弱やテンポの変化などは、どこまでがマーラーの指示でどこからがヘンゲルブロックの解釈なのか、ちょっと判断が難しい。そこらへんは楽譜を見たり聴き比べをしないとわからない。
そのヘンゲルブロックの音楽であるが、ハンブルク稿であろうが最終稿であろうが、「徹底」という意味で変わらなかっただろう。前提は、緊密なアンサンブルと全体のバランス統制。大きな昂揚が起きても、決してそれに流されない。最終楽章でこんなにも鳴らない唸らない演奏は初めて聴いた。まさに「ヘンゲルブロック流」。
なんかサッカーの監督みたい。「スターはいらない。全員攻撃全員守備。献身性を持ってチームのために走れ」みたいな。