クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2015/5/8 旅行最大のピンチ

 旅行の最後の最後で、最大のピンチが襲った。ストライキ関連ではない。私にとってはそれ以上に焦った緊急事態だった。現場はダルムシュタットのホテル。本当に冷や汗が出た。
 
 宿泊先として選んだのは、中央駅から市街に向かって200メートルくらいの場所に位置した中級ホテル。部屋数は20から30くらいだろう。家族経営の小規模ホテルと言っていい。
 こういうホテルはレセプションデスクが24時間オープンしているとは限らない。オペラ観賞でホテルに戻るのが遅くなる場合、あるいは翌朝早く出発する場合、こういう事態に備え、私はいつも受付が開いている時間をしっかり聞いて確認する。もちろんこちらが聞く前にホテルの方から説明をしてくれる場合もある。
 案の定、このホテルの受付は24時間ではなく、「夜は午前1時まで、朝は午前6時から」とのことだった。このため、翌日の早朝チェックアウトを告げ、支払いを先に済ませ、早朝出発のための出口の開け方などを教えてもらった。これで万事オーケーのはずだった。
 
 ハプニングは、オペラを観終え、軽く食事を取って帰ってきた午後11時過ぎに発生した。
 
 ホテルの玄関ドアに鍵がかかっていて開かない。透明のガラスドアの外から内部を覗き込むが、中には誰もいない気配。ドアを叩く。大声を出して呼ぶ。誰も出てこない。自分の部屋の鍵は受付に預けてある。
 ということは・・・。
 
「やばい!!ホテルに入れない!!締め出された!!マジか!? うっそー!!」
夜は午前1時まで開いているって言ってたではないか!? てめー。
 
 こういう場合、大抵入り口のドアに呼び鈴が設置してあるはずだ。実際、ブザーのようなものが見つかった。しかし、それを押しても何事も起きない。
 そのブザーのすぐ脇に郵便受けのようなボックスと内線用のような受話器があったが、受話器を持ち上げても、うんともすんとも言わない。
 よく見ると、そこに注意書きのようなメモが貼ってあった。もちろんドイツ語。何が書いてあるかわからないが、電話番号らしき数字がある。
 
 この電話番号に電話しろということか? おいちょっと待て。こちとら携帯電話を部屋の中に置きっぱなしにし、持ち出していないんだよ。どうすんだよ。
 
 するとその時、中から人が出て来た。同じホテルに泊まっているお客さんで、60歳くらいの男性。たばこを吸うために外に出て来たのだという。
 
「助かった。ドアを開けてもらえる。これで中に入れる・・・。」
 ホッとしたのはつかの間だった。甘かった。
 
 おじさんがドアを開けてくれて中に入れてくれたのはいいが、受付に置いてあるはずの自分の部屋の鍵がない。片付けられている。はあ???どういうこと???
 
 おじさんがブザーの脇に貼ってあったメモを読み、どういう状況にあるのかを説明してくれた。英語は苦手のようだったが、一生懸命伝えてくれたので、こちらも意味が通じた。
 
 こういうことだった。
・外出されている人の鍵は、郵便受けのようなボックスの中に保管してある。
・電話をかけてくれれば、暗証番号をお伝えする。
・その暗証番号でボックスを開け、自分の部屋の鍵を取り出す。
 
 何の解決にもならなかった。なぜなら、そのおじさんも携帯電話を持っていなかったからだ。おじさんは一服した後、「助けてあげられなくて、ごめんね。」と詫びの言葉を残し、自分の部屋へと戻っていった。
 
 再び一人取り残されたオレ。やばい。完全にやばい。このまま朝までホテルの外で過ごすのか?
冗談じゃない。明日は帰国の日なのだ。鉄道ダイヤの乱れを避けるため、午前5時には出発しなければならない。ベッドで寝られるかどうかより、なんとしても荷物を部屋から取り返さなければならない。
 
「どうすればいいんだ?どうすればいいんだよー?」
 食事の際に飲んだお酒のほろ酔い気分は完全にすっ飛んだ。頭を高速回転させて考えを巡らす。すぐに結論が思い付いた。
 
 道行く人を呼び止める。事情を説明し、もし携帯電話を持っていたら、申し訳ないが代わりに電話をかけてもらう。
おそらくこれが唯一の解決策だろう。
 
ところが道行く人はほとんどいない。大通りではないし、時間は午前0時近くになっているのだ。
 
最初に声をかけた人は、英語での呼び止めを遮るかのように行ってしまった。
次に声を掛けた人も、「ノー、ノー」と言って去っていってしまった。
次に声を掛けた人は酔っぱらいで、埒があかなかった。
 
もう本当に泣きたかった。でも、断られてもこれを粘り強く続けるしかない。助けてくれる人が現れるまで。諦めるわけにはいかない。
 
と、その時・・・。
 
ホテルに一台の車が停車した。中から女性が飛び出してきた。ホテルの受付の人だった。どうやら用事を済ますために、一時外出したようだった。
すぐにボックスを開け、鍵を渡してくれた。「申し訳ありません」の一言も無しに。
私は思いっきり机を叩いて怒鳴りたい衝動を必死に抑え、こう尋ねた。
「私は携帯電話を持っていなかった。こういう客はいったいどうしたら良かったというのか?」
 
女性は涼しい顔でこう答えた。
「このメモには、自動的に担当者につながる内線番号も記載してありました。携帯による外線でなくても、そちらをプッシュダイヤルすればつながったのですよ。」
 
 こちらはドイツ語を読めない。そして、つい先ほど手伝ってくれた宿泊客の男性はそこまで説明してくれなかった。
 
 もういいっ。
 これ以上苦情を申し立てたところで、何かしてくれるわけでもない。それより早く部屋に戻って落ち着きたかった。私は憤然とその場を立ち去った。ホテルに戻ってから、およそ1時間が経過し、既に日付が変わっていた。
 
二度とこのホテルは利用するものか。
もう一度ダルムシュタットに来る機会があるかさえわからないが。
 
教訓。携帯電話は常に持ち歩くべし。
 
 このホテルに非があったかどうかは別にして、酷い目に遭い、泣きたいほど焦り、不快極まりない気分に陥ったことは間違いないので、抗議の意を込めてそのホテル名をここに公表する。
 
Hotel Hornung」 Mornewegstrasse43
 
 それにしても、欧米人は決して謝らない奴らだな・・・。